「トヨトミの逆襲」梶山三郎著/小学館

公開日: 更新日:

「愛知県豊臣市」に本社がある“トヨトミ自動車”は売上高が29兆円余で営業利益が2兆円を超す。その社長、豊臣統一が作中でこうつぶやく。

「あの総理とはどうもウマが合わない」

 父親も祖父も政治家であり、大叔父にも首相経験者がいて、家系図は財閥・財界の大物がきら星のごとく居並ぶ内閣総理大臣・岸部慎介は、統一と同様、親の七光のボンボンと言われ続けてきたのだから気が合いそうなものなのに、合わない。

「岸部慎介」が誰をモデルにしているかは明らかだろうが、岸部が豊臣を「元は尾張の鍛冶屋の倅」と見下しているように見えるというのは笑える。

 それは私には「目くそ鼻くそを笑う」としか思えないし、共に「バカな大将、敵より怖い」の典型であるからだ。

 岸部がこの国のトップであることに恐怖をおぼえるのと同じように「巨大自動車産業」の社長がこの小説に描かれているがごとくとするならば、これもまた背筋が寒くなる話である。発行済み株式のわずか2%しか保有していないにもかかわらず、なぜ、豊臣家がトヨトミ自動車を支配するのか。

 30歳手前でトヨトミに入りたいと統一が父親の新太郎に申し出ると、新太郎は「お前を部下に持ちたい人間はトヨトミにはひとりもいない。それでもよければ人事部宛てに正式に願書を出せ」と厳しい言葉を投げた。それでも親の威光で44歳の時に最年少役員に、そして、52歳で社長になる。その統一を、ベテランの新聞記者が次のように評する。

「統一さんは自分に従順な人間は徹底的に重用するが、意見が合わなかったり、批判的な人間は許さない。結果、統一さんの周りには“お友達”しか残らない。口うるさい豊臣家の分家の連中も、古参の年長役員も、あらかた“粛清”は済んだ。人事部は自分たちに危害が及ぶから、必死になって統一さんの意向を忖度して、気に食わない人間を放り出す。そんな上司たちに嫌気がさしたんだろう。トヨトミ人事部では、この一年で中堅社員が10人以上辞めている」

 まるで岸部慎介こと安倍晋三のことを言っているようだろう。明らかにトヨタがモデルの豊臣で私が一番許せないのは、1959年に由緒ある挙母市を豊田市に変えたことである。

 ★★★(選者・佐高信)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは

  4. 4

    柳田悠岐の戦線復帰に球団内外で「微妙な温度差」…ソフトBは決して歓迎ムードだけじゃない

  5. 5

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    ローラの「田植え」素足だけでないもう1つのトバッチリ…“パソナ案件”ジローラモと同列扱いに

  3. 8

    ヤクルト高津監督「途中休養Xデー」が話題だが…球団関係者から聞こえる「意外な展望」

  4. 9

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 10

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?