「米中密約“日本封じ込め”の正体」菊池英博氏

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 新型コロナの蔓延で、世界経済はかつて見たこともなかったような危機に瀕している。もちろん、日本も例外ではないが、日本経済の停滞について国民は大きな誤解をしている、と指摘するのが本書だ。

 日本は戦後、飛躍的に経済成長をとげてきたといわれるが、それは間違い。ここ30年はまったく成長していないのだ。なぜなら、米国が日本の富を吸い上げてきたからである。その背景にあるのは、1971年のキッシンジャー、周恩来会談で、そこで米中が日本を経済的に封じ込める密約があったという。

 コロナの原因をめぐって、米中の対立が激化している今、米中による“日本封じ込め”密約が今も功を奏しているというのは驚きだ。会談は史実で、そこで話された内容は今も生きている――。

「私は、日本がインフレでもないのに小泉内閣がプライマリーバランス(基礎的財政収支)の均衡を言い出し、現在の安倍内閣までがデフレ型財政規律政策をとっていることが、ずっと不思議でした。こうした政策をとっているのはアルゼンチンとギリシャだけで、両国ともインフレを抑え込むために使ったのです。日本はインフレでもないし、円も強い。それなのに、デフレ策をとっているのは経済的な側面だけでは推し量れない国際政治のなにかがあるように感じたのです」

 著者は東京銀行時代、欧州の支店長を経験している。そんな縁でユーロ圏に知己が多い。

「安倍政権が集団的自衛権の一部容認に踏み切る閣議決定をした際に、欧州の日本通の知り合いから聞かれたんです。『日本はまた中国と戦争するのか』と。ドイツで私が食堂で並んでいると、男が横入りしてきたので『並んでます』と言うと、男に『リメンバー・パールハーバー』と言われたこともありました。日本はまだそんなふうに見られているのか、と衝撃でしたが、同じセリフをトランプ大統領は2度口にしています。つまり、戦後の国際政治とは、日本とドイツをいかに封じ込めるかという歴史だったんですよ」

 1971年、周恩来はキッシンジャーに「日本は米国のコントロールなくしては野蛮な国だ。拡大する経済発展を制御できないのか」と語りかけている。キッシンジャーは「日本は部族的視野しか持たない」「日本が自国防衛に限定するように最善を尽くさなければならない」「米国は日本を経済大国にしたことを後悔している」旨を述べている。つまり、日米安保は日本が軍事拡大主義をとらないための封じ込めだとも明言している。

 その後、日本脅威論が噴出してくると、米国は年次改革要望書を突きつけ、金融緩和や外資参入の規制緩和、郵政民営化などを求めるようになる。

 その結果、日本の富は米国に吸い上げられる構図が出来上がってしまった。こうして“日本封じ込め”は行われてきたのである。

 それなのに、安倍首相はトランプ大統領との蜜月を自慢している。

「おかしなことです。安倍首相は訪米して、“バイ・マイ・アベノミクス”なんていっていましたが、何ひとつ成長していません。利益を得ているのは米国を中心とした外資。トランプ大統領は“自分は100%シンゾーとともにある”などと言っていますが、大変な役者、商売人ですよ。それなのに、日本の政治家も官僚もへつらっている。自分たちの政治的保身のためです。さらに中国を敵視する外交をし、改憲をもくろんでいます。米中にはさまざまな密約があり、オバマ時代は共存共栄でやってきた。いまは激突しているように見えても“日本封じ込め”では一致しているのを忘れてはいけません」

 客観的データをもとに米中覇権争いの陰で行われている「日本封じ込め」を解明する。

(ダイヤモンド社 1600円+税)

▽きくち・ひでひろ 1936年生まれ。東大教養学部卒、東京銀行を経て文京学院大大学院教授。現在、日本金融財政研究所長。「新自由主義の自滅」(文芸春秋)など著書多数。

【連載】著者インタビュー

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