「告解」薬丸岳氏

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 もし自分が“加害者”になってしまったら、命を奪った罪は、どうしたら許されるのか。交通事故という誰の身にも起こり得る事件を題材に、罪と贖罪の在り方を問う骨太な長編小説だ。

「いつか加害者視点で書いてみたいと思っていたのですが、やってみると、難しかったですね。ピカレスク小説のように、カッコいい悪党を書くような物語だったらまた違うのでしょうが、僕には加害者のリアルを書かなければという思いがありました。自己弁護や言い訳、ずるさや隠蔽……そういった部分を書かなければいけないと。と同時に、主人公ですから、多少なりとも読者に感情移入してもらわなければいけない。身勝手で腹が立つヤツだけではだめで、そのあんばいが難しかったです」

 20歳の大学生・籬翔太は、バイトの後、友人と酒を飲み、帰宅。そこに恋人から呼び出しメールが来て、深夜、父親の車で家を出る。赤信号を無視し、横断歩道を渡っていた81歳の主婦をはねた上に、走り去り、ひき逃げ犯として逮捕されるも〈人だとは思わなかった〉と主張し続けた。

 懲役4年10月の刑が確定し、服役。夜中、悪夢にうなされ〈本当のことを話そう〉と決意するが、自分を信じる母親の顔を見ると決意は容易にくじける。そんな弱さ、ずるさはしかし、彼だけのものではないだろう。

「事故や事件にならなくても、生きていると罪を負うことはあると思うんです。自分の心の中にある罪とどう向き合うか。それを考えてもらいたいと思って書いています」

 両親は離婚。刑期を終えた翔太は、家族に迷惑をかけまいと、一人暮らしをし、派遣で働き始めるが、甘くない現実にぶち当たる。そこに現れるのが、事故で亡くなった主婦の夫・法輪二三久。彼には〈やらなければいけないことがある〉のだった。

「被害者の夫である二三久が、本来憎むべき人間に対して、何をし、何を伝えるのか。それがこの作品でいちばん書きたかったことです」

 刑務所には会いに来てくれず、音信不通になっていた父もまた、手紙という形ではあるが、身をもって翔太に伝えようとする。父が子に残せることは何なのかを、問いかける小説でもある。

「実は、この小説のアイデアが浮かんできたのは、僕が父を亡くして1カ月か2カ月くらい経った後だったんです。尊敬し、目標にしてきた父ですが、50年親子をやってきても、振り返ってみれば、わからないことだらけ。それでも、大切なことを伝えてもらったので、僕の考える親子関係や親の責任を、作品に込めたいと思いました」

 二三久と対峙した翔太に訪れる慟哭。読んでいて息苦しくなる告白の先に、光差すラストが待っている。

「最後の2行は、書く前から決まっていました。ここに向けて、書いていったような感じですね。僕は、刑務所に入るのは司法が科す罰であって、それと償いは別物だと思っています。大事なのは、刑期の間もその後も、どう考えて、どう生きていくか。やってしまったことは、取り返しがつかないので、嘆くわけでもなく、逃げるわけでもなく、隠れるわけでもなく、罪と向き合って、とにかく誠実に真剣に生きていくしかないのだと思います」

 著者はデビュー以来、犯罪という重いテーマを書き続けてきた。

「ニュース報道を見て感じる怒りや理不尽さは、ひとつのモチベーションになっています。僕はSNSをいっさいやらないかわりに、作品として、自分なりの発信をしてきた。それがこの15年だと思っています」

(講談社 1650円+税)

▽やくまる・がく 1969年、兵庫県生まれ。2005年「天使のナイフ」で第51回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。著書に映像化された「友罪」、「Aではない君と」(吉川英治文学新人賞)、「悪党」「死命」のほか、「刑事・夏目信人シリーズ」「神の子」「ガーディアン」「蒼色の大地」など多数。

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