「ドードーをめぐる堂々めぐり」川端裕人著

公開日: 更新日:

「不思議の国のアリス」に「堂々めぐりと長い尾話」という一節がある。池に落ちたアリスが体を乾かそうと変てこりんな動物たちの一団とかけっこをするというもの。そこで賞品の代わりに指ぬきをアリスにあげる嘴(くちばし)の大きな鳥がドードーだ。

 テニエルが描いた滑稽な姿は世界中に広まりそのイメージが定着した。しかしこの絵が描かれた1865年には、実在のドードーはすでに絶滅していた。2014年に絶滅間際の17世紀半ばに長崎の出島にドードーがやって来た記録が発見された。それを知った著者はその真偽を探るべく、このユニークな絶滅鳥の足跡をたどる旅に出る。

 ドードーはマダガスカル沖のモーリシャス島に生息していた飛べないハトの仲間。頭でっかちのがっしりした体形で、体高50~70センチ、体重10~20キロ。16世紀末にオランダの艦隊が訪れた際にその存在が報告され、1世紀も経たずに姿を消した。そのドードーが江戸時代初期の1647年、インドネシアのバタビアにあったオランダ東インド会社の総督が長崎のオランダ商館長宛てに送られていたとの記録があったのだ。

 著者はその記録に登場する長崎奉行、福岡藩主、大目付、長崎探題などを手がかりに、その後のドードーの行方を追っていく。さらに、初めてドードーを発見した(そして絶滅させた)オランダから、剥製標本の残っているチェコ、デンマーク、イギリスへと著者のドードー探索の旅は海を越え、最後、ドードーの故地、モーリシャス島でのドードーの遺骨探しで締めくくられる。

 手があって杖をついた「アリス」の絵のせいか、ドードーは架空の鳥のようなイメージが強いのだが、著者の探索の旅に付いていくうちに、ドードーは紛れもなくかつて実在し、島の沼や草原を走り回って生きていたことが実感できるようになる。また、19世紀末にドードーは絶滅鳥の象徴となり、絶滅種の保護という考えを生むことになる。

 歴史にイフはないが、どこかにひっそりと生きていて、トキのように復活することができたら、と──。 <狸>

(岩波書店 2970円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 2

    夏の京都に異変! 訪日客でオーバーツーリズムのはずが…高級ホテルが低調なワケ

  3. 3

    中日ポスト立浪は「侍J井端監督vs井上二軍監督」の一騎打ち…周囲の評価は五分五分か

  4. 4

    不倫報道の福原愛 緩さとモテぶりは現役時から評判だった

  5. 5

    ヒロド歩美アナ「報ステ」起用で波紋…テレ朝とABCテレビの間に吹き始めた“すきま風”

  1. 6

    中日立浪監督「ビリ回避なら続投説」は本当か…3年連続“安定の低迷”でも観客動員は絶好調

  2. 7

    阪神岡田監督の焦りを盟友・掛布雅之氏がズバリ指摘…状態上がらぬ佐藤輝、大山、ゲラを呼び戻し

  3. 8

    夏休み到来! 我が子をテレビやゲーム、YouTube漬けにしない「割と簡単にできる方法」

  4. 9

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  5. 10

    新庄監督は日本ハムCS進出、続投要請でも「続投拒否」か…就任時に公言していた“未来予想図”