反プーチンの活動家を追うドキュメンタリー

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「ナワリヌイ」

 いまロシア関連のニュースは9割がウクライナ情勢だが、その前に話題だったのが反プーチンの活動家アレクセイ・ナワリヌイの動向。昨年1月、ドイツから投獄覚悟で帰国した際には搭乗機の中も報道陣が同行し、空港で連行される様子を目撃した。

 とはいえ日本の海外報道は米国以外は実に頼りない。よほど意識しない限り、ナワリヌイがどんな経歴なのかさえ大して伝わってないのだ。

 先週末封切られた「ナワリヌイ」はそんな情報の空白を埋めるに適したドキュメンタリー。最近めだつ作家性の高い製作手法とは正反対の、ジャーナリズムに徹したドキュメンタリーである。

 ちなみに「ジャーナリズム」とはいわゆる中立公正を旨としない。それは明確に「反権力」だ。それゆえここでもカメラは反プーチンを貫くナワリヌイに徹底して寄り添う。

 特に驚かされるのが記者の協力を得た地道な調査報道。彼を毒殺未遂に追い込んだ諜報員をあぶり出し、じかに電話して真相を暴く場面だ。

 ロシアが暗殺に使う神経兵器ノビチョクをナワリヌイの下着に仕込んだ科学者が、軍を装ったニセ電話であっさり白状する。そのさまを横で見守る記者の様子に、「報道」の現場がいかに地道な執念と気概と継続と幸運に左右されるかが伝わってくるのだ。

 ちなみにこの記者は実は新聞でもテレビでもなく、欧州で注目の調査報道集団「べリングキャット」のメンバー。エリオット・ヒギンズ著「べリングキャット」(筑摩書房 2090円)はその創設者の手記である。

 新聞社の入社試験に落ちてクサっていた団塊ジュニア世代の若者が「アラブの春」のネット情報にハマり、ネット調査でスキャンダリズムの裏をかく手法を身に付けていく。やがて世界の大手メディアを瞠目させたひとかどの報道集団のリーダーとなるまでの歩みが痛快だ。 <生井英考>

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