ハリウッドの配役という華やかな世界の裏側

公開日: 更新日:

「キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性」

 現代のアメリカ映画は“商品作り”があざとすぎて辟易するが、ひとつだけ感心するのは配役。判で押したような陳腐なストーリーでも、ある役に見合った、それらしい顔かたちや外見の俳優を抜擢する力は、いまもあなどりがたい。

 そのキャスティング専門職として長年知られた女性をめぐるドキュメンタリー映画が来週末封切りの「キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性」だ。

 ハリウッドの裏方として働く女性を追った作品というと、本欄でも紹介した「スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち」などがある。いわば“職業ドキュメンタリー”だが、今回はマリオン・ドハティという、戦後まもなくから業界で働いてきたベテランの生涯に注目した点がユニークだ。

 そのキャリアは戦争直後の黎明期のテレビ業界に始まる。当時、テレビは格下の業界とされたが、それゆえ女性が働ける余地も大きかった。彼女は、そのころ知った無名俳優のジョン・ボイトとダスティン・ホフマンを、のちに「真夜中のカーボーイ」の主役コンビとしてキャスティングしたのである。クリント・イーストウッド、アル・パチーノ、ウディ・アレン、ダイアン・レインらが次々に登場して語る思い出は、さながらハリウッド万華鏡の趣だ。

 もっとも、映画業界の製作方式や業界慣習は海外と日本で違いが大きすぎて、似た存在は思いつかない。むしろ、連想するのは洋画の輸入配給界の女性たちである。

 高野てるみ著「職業としてのシネマ」(集英社 946円)はヨーロッパ映画の配給で知られる巴里映画で「ギャルソン」「サム・サフィ」「パリ猫ディノの夜」などを成功させた映画プロデューサーの自伝的エッセー。アート系ミニシアターという日本独自の興行形態が隆盛する中の“武勇伝”の数々が楽しい。 <生井英考>

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阪神・梅野がFA流出危機!チーム内外で波紋呼ぶ起用法…優勝M点灯も“蟻の一穴”になりかねないモチベーション低下

  2. 2

    梅野隆太郎は崖っぷち…阪神顧問・岡田彰布氏が指摘した「坂本誠志郎で捕手一本化」の裏側

  3. 3

    「高市早苗首相」誕生睨み復権狙い…旧安倍派幹部“オレがオレが”の露出増で主導権争いの醜悪

  4. 4

    巨人・戸郷翔征は「新妻」が不振の原因だった? FA加入の甲斐拓也と“別れて”から2連勝

  5. 5

    国民民主党「選挙違反疑惑」女性議員“首切り”カウントダウン…玉木代表ようやく「厳正処分」言及

  1. 6

    時効だから言うが…巨人は俺への「必ず1、2位で指名する」の“確約”を反故にした

  2. 7

    パナソニックHDが1万人削減へ…営業利益18%増4265億円の黒字でもリストラ急ぐ理由

  3. 8

    ドジャース大谷翔平が3年連続本塁打王と引き換えに更新しそうな「自己ワースト記録」

  4. 9

    デマと誹謗中傷で混乱続く兵庫県政…記者が斎藤元彦県知事に「職員、県議が萎縮」と異例の訴え

  5. 10

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず