「奥村靫正作品集」奥村靫正著

公開日: 更新日:

「奥村靫正作品集」奥村靫正著

 先日、亡くなった世界的音楽家・坂本龍一氏の名を世に知らしめたきっかけは、細野晴臣氏、高橋幸宏氏と組んだ「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」だった。

 1970年代から日本のロックミュージシャンの仕事を多く手掛けてきたイラストレーター・アートディレクターの著者は、社会現象にもなったYMOのアートディレクションを担当。アルバムジャケットからステージデザインまで、その鮮烈なビジュアルは今なお伝説的に語り継がれている。

 本書は、そんな氏のデビューからの軌跡を振り返る作品集。

 巻頭では、「グラフィックエンターテインメント」とも称されるポスター作品が並ぶ。

 日本画を学んでいた父によって、幼い頃から何人もの先生について専門的な日本画教育を受けてきた氏は、後に父親の反対を押し切って進路を転向した。

 しかし、80年代初頭、音楽関連のビジュアルワークで注目を集めた氏は、一度は捨てた日本画の技法を「再発見」して、自身の活動のもうひとつの軸としていく。

 赤く染まった紅葉の木を背景に、ウサギや鹿が描かれる「いけばな小原流」のポスターは、題材から画面構成や色調まで、まさに花鳥風月画の趣なのだが、よく見るとウサギや鹿はポップにデザインされた現代アートのテイストを感じさせる。

 小原流のポスターの別バージョンには、葛飾北斎の有名な「神奈川沖浪裏」図の大波の3秒後をイメージして、大和絵風に描き、デザインしたものもある。

 同時期に登場したMacintoshをいち早く導入した氏は、コンピューターによる画像編集のなかに日本画的発想を再生させた。アメリカのApple社の要望でこうした作品を送ると、日本ではもう伝統的な絵画にMacを取り入れているのかと驚かれたという。

 それほど氏の作品は、日本画としてのクオリティーも高く、1990年の大嘗祭の宮内庁式典用畳紙にも用いられているほどだ。

 第2章では、いよいよ音楽関連のビジュアルを紹介。

 1981年にYMOが発表したLP「BGM」(表紙)や「テクノデリック」のジャケットやライナーノーツをはじめ、のちにYMOのシンボルマークとなった「温泉マーク」や、「ウィンター・ライヴ1981」のステージデザインに、同ライブのフライヤーやチケットなどの関連媒体、ワールドツアーのパンフレット、そしてYMOの「散開」を記念して作られた写真集「SEALED」(1984年)やそのポスターまで一連の作品が並ぶ。

 ほかにもチェッカーズなどのミュージシャン関連の作品、書籍や雑誌など出版物まで、氏の仕事はさまざまなジャンルに及ぶ。

「自分に強力な作家性やスタイルはなく、これまでの仕事はすべて協働する相手や状況全体に応じて導かれてきたものだ」と語る氏の仕事は、まさに時代を象徴しながらも唯一無二のデザインの底力を伝える。

 (グラフィック社 5500円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    佐々木朗希「スライダー頼み」に限界迫る…ドジャースが見込んだフォークと速球は使い物にならず

  2. 2

    永野芽郁「キャスター」視聴率2ケタ陥落危機、炎上はTBSへ飛び火…韓国人俳優も主演もとんだトバッチリ

  3. 3

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  4. 4

    風そよぐ三浦半島 海辺散歩で「釣る」「食べる」「買う」

  5. 5

    広島・大瀬良は仰天「教えていいって言ってない!」…巨人・戸郷との“球種交換”まさかの顛末

  1. 6

    広島新井監督を悩ます小園海斗のジレンマ…打撃がいいから外せない。でも守るところがない

  2. 7

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  3. 8

    令和ロマンくるまは契約解除、ダウンタウンは配信開始…吉本興業の“二枚舌”に批判殺到

  4. 9

    “マジシャン”佐々木朗希がド軍ナインから見放される日…「自己チュー」再発には要注意

  5. 10

    永野芽郁「二股不倫」報道でも活動自粛&会見なし“強行突破”作戦の行方…カギを握るのは外資企業か