「本売る日々」青山文平著

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「本売る日々」青山文平著

 時は江戸時代後期の文政5年。城下で本屋松月堂を営む平助は月に1度、在へ赴き名主の家や手習所、寺などに本を行商して回っている。ただし、平助が届けるのは、漢籍や仏書など、物事の本質を意味する物之本。浄瑠璃本や草双紙などのはやりを扱う草子屋とは違うのだ。

 ある日、上得意の一人、小曾根村の名主・惣兵衛を訪ねたときのこと。孫娘の年ほどの少女を後添えにもらった惣兵衛に、「妻に何か見せてやってくれ」と頼まれる。平助は持っていた絵画の教本「芥子園画伝(かいしえんがでん)」を見せるが、目を離したすきに2冊が消えてしまう。持ち去ったのは少女に間違いないが、惣兵衛にどう伝えるか……。

 するとふいに惣兵衛が現れ、譲ってほしいと代金を差し出し、少女について語りだす。(表題作)

 本屋の男、平助を語り部にした、3編から成る連作短編時代小説。現代とは異なり本が大切にされていた江戸時代、中でも物之本という、いわゆる学術書がいかに貴重であったか、そして市井の人々がいかに本と知識を欲したかが男の目を通して浮かび上がる。平助の元に持ち込まれる不思議譚から不可解な事件まで、本が引き寄せる豊かで人情あふれる世界に、没入間違いなしの一冊。

(文藝春秋 1870円)

【連載】週末に読みたいこの1冊

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