「本売る日々」青山文平著

公開日: 更新日:

「本売る日々」青山文平著

 時は江戸時代後期の文政5年。城下で本屋松月堂を営む平助は月に1度、在へ赴き名主の家や手習所、寺などに本を行商して回っている。ただし、平助が届けるのは、漢籍や仏書など、物事の本質を意味する物之本。浄瑠璃本や草双紙などのはやりを扱う草子屋とは違うのだ。

 ある日、上得意の一人、小曾根村の名主・惣兵衛を訪ねたときのこと。孫娘の年ほどの少女を後添えにもらった惣兵衛に、「妻に何か見せてやってくれ」と頼まれる。平助は持っていた絵画の教本「芥子園画伝(かいしえんがでん)」を見せるが、目を離したすきに2冊が消えてしまう。持ち去ったのは少女に間違いないが、惣兵衛にどう伝えるか……。

 するとふいに惣兵衛が現れ、譲ってほしいと代金を差し出し、少女について語りだす。(表題作)

 本屋の男、平助を語り部にした、3編から成る連作短編時代小説。現代とは異なり本が大切にされていた江戸時代、中でも物之本という、いわゆる学術書がいかに貴重であったか、そして市井の人々がいかに本と知識を欲したかが男の目を通して浮かび上がる。平助の元に持ち込まれる不思議譚から不可解な事件まで、本が引き寄せる豊かで人情あふれる世界に、没入間違いなしの一冊。

(文藝春秋 1870円)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    清原和博氏が巨人主催イベントに出演決定も…盟友・桑田真澄は球団と冷戦突入で「KK復活」は幻に

  2. 2

    安青錦の大関昇進めぐり「賛成」「反対」真っ二つ…苦手の横綱・大の里に善戦したと思いきや

  3. 3

    99年シーズン途中で極度の不振…典型的ゴマすりコーチとの闘争

  4. 4

    実は失言じゃなかった? 「おじいさんにトドメ」発言のtimelesz篠塚大輝に集まった意外な賛辞

  5. 5

    日銀を脅し、税調を仕切り…タガが外れた経済対策21兆円は「ただのバラマキ」

  1. 6

    巨人今オフ大補強の本命はソフトB有原航平 オーナー「先発、外野手、クリーンアップ打てる外野手」発言の裏で虎視眈々

  2. 7

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  3. 8

    林芳正総務相「政治とカネ」問題で狭まる包囲網…地方議員複数が名前出しコメントの大ダメージ

  4. 9

    国分太一が「世界くらべてみたら」の収録現場で見せていた“暴君ぶり”と“セクハラ発言”の闇

  5. 10

    角界が懸念する史上初の「大関ゼロ危機」…安青錦の昇進にはかえって追い風に?