「私たちはいつから『孤独』になったのか」フェイ・バウンド・アルバーティ著、神崎朗子訳

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「私たちはいつから『孤独』になったのか」フェイ・バウンド・アルバーティ著、神崎朗子訳

 2018年1月、英国政府は「孤独は現代の公衆衛生上、最も大きな課題のひとつ」だとして孤独担当大臣を設置した(21年に廃止)。次いで日本でも21年2月に内閣官房に孤独・孤立対策担当室が設置された。

 こうした背景には、孤独は精神疾患や身体疾患を引き起こす「疫病」ともいうべき危険因子となっているという通念がある。ここでいう孤独は、周囲からの疎外感、どこにも自分の居場所がないという欠乏感などの感覚で、単に独りでいる状態とは異なる。英語では前者はロンリネス、後者はソリチュードで、ロンリネスが一般的に使用されるようになったのは19世紀以降だという。

 本書は、近代以降に性格づけられたネガティブな面だけではない孤独の概念を歴史的にとらえ、孤独がさまざまな人びとの人生にどのような影響を及ぼしたのかを描いていく。

 たとえば、アメリカの詩人で作家のシルビア・プラス。生涯孤独につきまとわれたプラスは自殺衝動に取りつかれ、何度かの試みの後、自死してしまう。

 大英帝国の統治者として君臨したビクトリア女王は、最愛の夫アルバート公が亡くなってから40年もの間、喪に服し、夫が生きているかのように振る舞っていたという。彼女が残した日記には連れ合いを亡くした人間の深い孤独が刻まれている。

 また、「ソウルメート」に会えない限り自分は不完全であるという考えから生まれる孤独感をエミリー・ブロンテの「嵐が丘」と映画「トワイライト」シリーズを素材に考察していく。一方、孤独をポジティブな経験として創作に生かした例としてワーズワース、バージニア・ウルフ、メイ・サートンなどが取り上げられている。

 そのほか、SNS時代における新たな孤独感や老後の孤独、ホームレスや難民が被っている孤独など、多層的な側面を照らし出し、今後どのようにこの孤独と向き合うべきかを問いかけている。 〈狸〉

(みすず書房 4620円)

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