上官の覚えめでたい新兵に罠を仕掛け破滅に

公開日: 更新日:

 軍隊はいうまでもなく武力集団だが、それ以上に儀礼的な集団でもある。

 厳密な階級制と命令系統。延々と繰り返される「気をつけ」と「休め」。考えるより先に動く体。礼装となれば兵卒でさえ胸に軍歴章を飾り立ててめかしこむ。その光景は、ときに奇妙なほど官能的だったりする。

 軍隊組織のこういう一面を巧みに映像化したのが都内で公開中のクレール・ドゥニ監督「美しき仕事4Kレストア版」。フランスの女性映画作家の代表作のひとつである。

 東アフリカの旧仏植民地ジブチに駐留するフランス外国人部隊。上官に忠誠を捧げる古参の軍曹が、上官の覚えめでたい新兵に嫉妬し、罠を仕掛けて破滅に追いやる。

 この筋書きは明らかに米作家ハーマン・メルヴィルの「ビリー・バッド」だが、舞台をアフリカ、組織を外国人部隊に翻案し、強烈な太陽と青い海と灼熱の砂漠がおりなすエキゾチシズムをスクリーンいっぱいに塗りこめる。近ごろのボーイズラブなど一蹴する語りの胆力が、背後に流れる荘重な歌曲とともに腹にずんとした手応えを残す。

 実は本作は1999年の作品。フランス映画祭などを除く劇場での一般公開は今回が初めてという。こういう未公開作や珍しいリバイバル作でミニシアターが若い観客で埋まるのも昨今の東京なのだ。

 外国人部隊の体験記類には率直なところめぼしいものがない。ほぼ唯一の例外が、駒村吉重著「お父さん、フランス外人部隊に入隊します。」(廣済堂 702円)。

 大学卒業を控えた息子が突如失踪し、1週間後に手紙をよこす。仰天した父と息子の手紙を中心に、父子の絆に迫ったノンフィクションだ。失意の父に寄り添う一方、「力まかせに人生の上り坂をゆく」若者の客気も大事にあつかう著者の気働きがいい。映画とも一味違う余韻を残す。 

<生井英考>

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    紳助暴行事件 衝撃の一部始終(2)

  2. 2

    紳助暴行事件 衝撃の一部始終(1)

  3. 3

    2度目の離婚に踏み切った吉川ひなの壮絶半生…最初の夫IZAMとは"ままごと婚"と揶揄され「宗教2世」も告白

  4. 4

    2026年は米価が値頃になるのか? 昨年末には最高値更新も業界には先安感漂う

  5. 5

    「日吉湯」は大満足のスーパー銭湯風銭湯 15台分の駐車場も完備

  1. 6

    紳助暴行事件 衝撃の一部始終(3)

  2. 7

    NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」への“期待と不安”…第1話を見た時代劇研究家が語る

  3. 8

    “脇役中の脇役”仲野太賀に秀吉を補佐する弟・秀長はまさにハマリ役 NHK大河「豊臣兄弟!」スタート

  4. 9

    青学大・原晋監督も警戒! 早大総長の「2億円の置き土産」は来年開花するか

  5. 10

    矢沢永吉と郷ひろみ…NHK紅白で浮き彫りになった“待遇格差”の現実 視聴率35%回復も問題山積