5人に1人が心不全発症する時代…夜中の頻繁なトイレに注意

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 過去10年間の医学の現実は、次の10年間の医学の現実とは何の関係もない――。これは米国国立がん研究所のリチャード・クラウスナー所長ががん治療について述べた言葉だが、岡山大学大学院教授で循環器内科を専門とする伊藤浩医師は、心不全についても当てはまる言葉だと指摘する。

■75歳以上ではがんよりも死亡率が高い

「今、死因の1位はがんです。ところが75歳以上を見るとがんによる死亡が減少し、その代わり心疾患による死亡が増える。心疾患の中でも特に際立って増えているのが心不全です。すでに心不全は、循環器内科医の間では“common disease(誰でもなる病気)”という認識です。ますます超高齢化が進む今後を考えると、5人に1人が心不全に必ずなる時代も遠くはありません」

 心不全とは、心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、命を縮める病気だ。高血圧糖尿病肥満動脈硬化性疾患などの生活習慣病、さらに虚血性心疾患、左室肥大、無症候性弁膜症などを抱えていると、心不全のリスクが高くなる。

「重要なのはこの段階で対策を講じ、心不全を発症するのを防ぐこと。厳格な降圧(120㎜Hg未満)、心不全リスクを下げる糖尿病治療薬SGLT2阻害薬の服用、塩分制限(1日6グラム以下)、心不全を診断するBNPまたはNT―proBNP値を調べる。心不全の認識が不十分な医師もいるので、最初は循環器内科の専門医を受診した方がいい」

 生活習慣病同様に加齢も心不全のリスク要因だ。ところが、高齢者の中には心不全を疑うべき症状が出ているにもかかわらず「年のせい」と思っている人が少なくない。特に地方都市では移動はほぼ車。電車を使う習慣がない高齢者は、長い階段を上り下りすることもめったにない。

「心不全の症状のひとつに“階段を上ると息切れがする”というものがあるのですが、それを実感する機会が地方都市ではあまりなく、気が付きにくい。また心不全患者は“動くとしんどいから動かない”となり、表面化しにくい面もある」

 帰省し老親と顔を合わせる年末年始は、自らの目で老親の心不全の可能性をチェックするいい機会だ。「年のせい」にされたり、気付きにくい症状には、①夜、横になると咳が出る②手足が冷たい③疲れやすい④夜中に頻繁にトイレに行く⑤手足がむくむ⑥かがみ込むと苦しいなどがある。

「心不全になると相対的に骨格筋血流が減少します。それでも体を動かしていると、疲労物質である乳酸菌が筋肉にたまって疲れやすくなる。しかしこれも、心臓が悪いと思っていないと年のせいにしてしまう。夜中に何回も小用することも前立腺肥大などが原因だと考えてしまいがちです」

 おかしいな、と思う点があったら、循環器内科でBNPまたはNT―proBNP値(前出)を調べるべきだ。

「心不全には、以前からありよく知られている『収縮不全』の心不全と、近年増加している『拡張不全』の心不全があります。前者はレントゲンで異常が見つかりやすいのですが、後者はレントゲンでは一見元気な心臓に見える。しかしこの場合も、BNPまたはNT―proBNP値で心不全の有無が分かります」

 心不全を発症していても、早期に心臓リハビリなどの治療を受ければ、生命予後を延ばせる可能性がある。令和時代、ますます心不全が増えていくことは間違いない。正しい知識を持ち、正しく対処すべきだ。

【連載】令和時代 健康長寿の新常識

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