著者のコラム一覧
坂本昌也国際医療福祉大学 医学部教授 国際医療福祉大学 内科部長・地域連携部長

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

糖尿病がある人は将来、心臓トラブルが生じるリスクが高い

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「もっと早くに調べておけばよかった」

 医療の現場では、この言葉をよく聞きます。

「もっと早くに調べて病気を発見していれば治療の選択肢がもっとあったのに」「治る可能性があったのに」「こんなに苦しい思いをすることがなかったのに」――。患者さんにそんな後悔をしてほしくありませんから私が繰り返し言っているのは、つらい症状が出てくる前に検査を受けてください、ということです。

 今回も心不全に関する話です。狭心症や心筋梗塞などで心臓の機能が低下する心不全は、ある段階を過ぎると元には戻れません。特効薬もないので、ちょっとした動作でも息苦しさを感じながら日常生活の行動を大幅に制限された状態で、ゆるゆる死に向かっていくことになります。

 それを避けるためにも、糖尿病の患者さんには「心不全を起こすリスクが高い」としっかり認識してもらいたい。心不全には、心臓の収縮がうまくいかなくなる収縮機能不全タイプと、拡張がうまくいかなくなる拡張機能不全タイプとがあり、糖尿病の患者さんにリスクが高いのは拡張機能不全タイプになります。

 男女問わず、糖尿病、または高血圧脂質異常症があり、50代を過ぎたら、一度は心臓の超音波検査を受けるべきです。「かかりつけ医が何も言っていないから大丈夫だろう」というのは、間違いです。

 たとえば糖尿病を専門とする医師は、心不全に至る道の「入り口」は注意を払って診ていますが、心不全という「出口」はあまり意識していません。一方、循環器を専門とする医師は、「出口」は専門分野であるものの、「入り口」はノーチェックになっていることが珍しくありません。

 ひとりの医師が「入り口」も「出口」もトータルで診るのは、残念ながら、今の医療体制では難しい。対策としては、患者さんが心不全リスクを念頭に置き、自ら動いて検査を受けるしかないのです。

 今回、コロナの外出自粛期間で活動量が減り、体重が増えた人が多くいました。緊急事態宣言は解除され、県をまたいでの移動も可能になったとはいえ、今でも在宅勤務が推奨されている人は少なくないでしょう。「外出自粛期間中ほどではないけど、以前ほどあまり外に出なくなった」という話もよく聞きます。

 今後、リモートワークが珍しくなくなることを考えると、糖尿病、高血圧、脂質異常症の患者さんは、ますます増えていくのではないかと予想しています。

 よっぽど意識して体を動かし、食事内容に気をつけていないと、容易に糖尿病などを発症してしまう時代に突入しているのです。

 今まで通りの生活を続けていればどうなるか。活動量が減れば筋肉が落ちます。筋肉が落ちれば将来的にリスクが高くなるのがフレイルです。筋力や心身の活力が低下した状態(虚弱)で、風邪や転倒でも寝たきりになる可能性が高まります。

 このフレイルは、心不全と密接に関係しています。心不全になると息苦しく動きづらくなるので、よりフレイルが進行します。フレイルでは腎臓の働きも悪くなることがあり、そうすると心臓にも負担がかかって、むくみが生じます。

 また、動かなければ筋肉量が減少して筋力や身体機能が低下する「サルコペニア」の状態に陥りやすくなります。サルコペニアやフレイル、そして心不全が重なれば、要介護・要支援の状態になりやすく、健康寿命が短くなることは明らかです。

 早めの心臓チェックとともに、少しでも活動量を増やせる工夫を積極的に取り入れること。それが、人生100年時代を生き生きと楽しく過ごせるための必須項目だと思います。

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