(25)父はひとりで死んでいた…つながらない電話に胸騒ぎ

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 年が明け、私に母の病院からの請求書が届いた。振込金額を父に伝えるために電話をかけたが、なかなか出ない。近くのスーパーに買い出しに行っているのかもしれない。そう思いながら、携帯電話や固定電話に時間を変えて何度か電話をしてみたが、やはりつながらなかった。

 電話の音に気づいていないのか、あるいは寝ているのかもしれない。そう思おうとしたが、このときばかりは、どれもしっくりこなかった。父はこれまで、私からの電話に出なかったことはなかったのだ。背中にひやりとしたものが走った。

 その胸騒ぎを無視できず、私はすぐ近所の叔母に電話をかけ、父の様子を見に行ってくれないかと頼んだ。しばらくして、叔母から電話がかかってきた。

「お父さんがベッドの脇の床に倒れている」

 そう聞いてもなぜか私は冷静だった。生きていれば119番。死んでいれば110番。その知識はあった。私は尋ねた。

「倒れて苦しんでいるんですか、もう死んでいるんですか」

 叔母は「うーん……」と言った。

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