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室井佑月作家

1970年、青森県生まれ。銀座ホステス、モデル、レースクイーンなどを経て97年に作家デビュー。TBS系「ひるおび!」木曜レギュラーほか各局の情報番組に出演中。著書に「ママの神様」(講談社)、「ラブ ファイアー」(集英社文庫)など。

性行為のデジタル同意書アプリがリリース「キロク」されないあの一回は…

公開日: 更新日:

 ずいぶん昔、レースクイーンをしていた頃だ。レース場にその頃親しくしていた友人の一人がやってきた。レースが好きだと聞いたことがなかったので、突然の訪問には驚いたが、仕事を辞め、東京の家を引き払い実家に帰るんだといった。「自分は駄目なんだ」とつぶやき、笑って。

 彼は仲間内で場を和ませるため、自分から笑われにいくようなタイプだった。いつも笑っていた。が、その日の笑顔は、泣いている病人のような笑顔だった。

「誰かに相談した?」そうあたしが問うと、彼は力なく首を振った。きっと彼に「あなたは駄目じゃない」とどれだけいっても、今は信じてくれないだろう、そう感じた。独りでそのまま帰せなかった。その夜、あたしは彼と寝た。

 彼はその後、誰とも、あたしとも連絡を絶った。それでもあたしは『キロク』されないあの一回は、あって良かったのだと思ってる。自分にとっても、彼にとっても。

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