ドイツを歩く(下)「ベルリン」VRで体感した国境警備隊“亡命の瞬間”

公開日: 更新日:

「兄弟のキス」には人だかりが

 数ある壁アートの中でも、観光客のお目当ては「兄弟のキス」と呼ばれる作品。社会主義者同士の友愛を描いたもので、東ドイツのホーネッカー議長とソ連のブレジネフ書記長が口づけを交わしている。この作品の前だけ、スマホ片手に写真を取る観光客の人だかりができていた。

 イースト・サイド・ギャラリーと同じく、シュプレー川沿いには東ドイツ時代の倉庫を改装した「ウォール・ミュージアム」(壁博物館)がある。13の展示室をめぐりながら、第2次大戦の終わりから壁崩壊までの歴史を解説員が説明してくれる。東ベルリンで科学者として勤めていたという解説員は「東西が分断されていたころは、ある意味で“面白い”時代ではあった」と懐かしがった。

 分断当時を最新技術を使って学べるのが、「コールド・ウォー・ミュージアム」(冷戦博物館)だ。2022年11月にオープンした新施設で、東ドイツの対外諜報機関HVAのスパイグッズなどが展示されている。諜報員が持ち歩いていた銃入りの肩掛けカバンやスーツケース爆弾などが生々しい。目玉はVR体験。東から西へ亡命した国境警備隊のコンラート・シューマン(当時19歳)が、壁建設中に鉄条網の敷かれた境界線を西側へ飛び越えた時の様子を再現ドラマで追体験できる。

 VR装置をかぶると、視界に映るのは境界を挟んで見合う警備隊や東西市民の姿。シューマンの視点だ。

 流れてくる音声がドイツ語だったため、何を言っているかは分からなかったが、西側の老婦人から激しく罵倒されたり、西側の若者からはやし立てられたり。鉄条網を飛び越えるタイミングを図りながら、たばこを吹かしつつ、手持ち無沙汰を装いながら境界付近へとにじり寄る。西側の警察車両のバンが目の前にやってきた次の瞬間、鉄条網を飛び越え、後方のドアが開け放たれたバンに転がり込む。VR装置を付けて座っているだけなのに、「ハァハァ」と漏れるシューマンの息遣いに釣られて、こちらも呼吸が乱れるような臨場感だった。

「世界の分断」といわれる今こそ、かつて東西に引き裂かれたベルリンを歩いてみてはどうだろうか。

(取材・文=高月太樹/日刊ゲンダイ

最新のライフ記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    参政党・梅村みずほ議員の“怖すぎる”言論弾圧…「西麻布の母」名乗るX匿名アカに訴訟チラつかせ口封じ

  2. 2

    二階堂ふみと電撃婚したカズレーザーの超個性派言行録…「頑張らない」をモットーに年間200冊を読破

  3. 3

    選挙3連敗でも「#辞めるな」拡大…石破政権に自民党9月人事&内閣改造で政権延命のウルトラC

  4. 4

    11歳差、バイセクシュアルを公言…二階堂ふみがカズレーザーにベタ惚れした理由

  5. 5

    最速158キロ健大高崎・石垣元気を独占直撃!「最も関心があるプロ球団はどこですか?」

  1. 6

    日本ハム中田翔「暴力事件」一部始終とその深層 後輩投手の顔面にこうして拳を振り上げた

  2. 7

    「デビルマン」(全4巻)永井豪作

  3. 8

    【広陵OB】今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  4. 9

    広陵・中井監督が語っていた「部員は全員家族」…今となっては“ブーメラン”な指導方針と哲学の数々

  5. 10

    キンプリ永瀬廉が大阪学芸高から日出高校に転校することになった家庭事情 大学は明治学院に進学