佐々木裕介
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佐々木裕介フットボールツーリズム アドバイザー

1977年生まれ、東京都世田谷区出身。旅行事業を営みながらフリーランスライターとしてアジアのフットボールシーンを中心に執筆活動を行う。「フットボール求道人」を自称。

チャナティップはビジネス、スパチョークはエコノミー…タイ代表の飛行機座席問題の深層

公開日: 更新日:

チャナティップ「ビジネス」の疑問には答えが

 ただ、私の中でふたつの疑問が生じていた。ひとつは、なぜに「座席格差問題」が生じたのか。そしてもうひとつ。FATは彼らの移動になぜ、日系航空会社の座席を手配したのか、だ。

 取材を進めるうちに、疑問のひとつは解消することになる。FATは協会規定に沿ってふたり共に「エコノミークラス航空券」を手配したというのだ。しかしチャナティップは、自らの精算によってアップグレードしていたことが分かった。つまり後輩・スパチョークは、FAT手配の座席に普通に座ったことになる訳だ。しかし、もうひとつの疑問は解消されていない。

 協会規定や予算都合から、エコノミー航空券の手配になることは仕方のないことだとしても、もしFATがタイ国際航空で彼らの脚を手配していたならば、どうだっただろうか。

 航空会社が、それなりの対応を彼らに施したのでは、という気がしてならない。理由はふたつある。彼らがタイで人気あるスポーツのスター選手であること。

 以前、エコノミークラスに座る「僧侶」がビジネスクラスへ案内される姿を、筆者は2度目撃したことがある。「タイでは坊さんってそんなに偉いのか」と羨ましさを覚えたのと同時に、タイ文化の奥深さを知っていたからである。

 今回の一件は、各々の国の文化や置かれた環境に大きく左右される事案だろう。またサッカー協会の運営規模によっても事情が異なることは言うまでもない。

 FIFA世界ランクで100位にも満たない国の代表チームが、全員アッパークラスに座って移動し、5スターホテルを定宿にすることには違和感を覚えるだろうし、結果が出ないのに待遇面だけ要求すれば、そこを叩くメディアやファンだっているはずだ。また予算面からしても現実的に難しい話しだろう。

 ただ代表選手は所属クラブからの「借り物」という側面もある。

 送り出すクラブ側からすれば、高額な給料を支払っている自前選手が粗末な対応をされては、良い気はしないはずである。 詰まるところ、何事もバランスが大事ということになるのだ。

 予想もし得なかった事態で面子をつぶされた格好のFAT。ただ立場が違えば、見方も思いも異なる。彼らにも言い分はあるはずだ。

 しかし、取材の中で、今までも代表招集にともなう活動下において、選手自身が身銭を切る場面はしばしばあったとも耳に入ってきている。それは、少しいただけない気はしている。

 筆者が取材の主戦場とする東南アジアにおいて、哀しいかな「プレイヤーズファースト」の姿勢を感じ得たことはあまり多くはない。それはアセアンフットボールの雄であるタイサッカー界も然りだ。先にも記したが、これはひとえに王室を頂点とする「階級制度」が及ぼす王国ゆえの文化が影響している根深い実情ではないだろうか--というのが筆者の持論だ。

 今でこそ世界の強豪国同様の待遇を給仕される日本代表ではあるが、30年程前は、前者と何ら変わらぬ環境下で活動していたことを今、執筆しながら懐かしんでもいる。 

 じゃあ~タイサッカーも30年後には、ナショナルフラッグシップの特別仕様チャーター機でワールドカップへ向かう姿を! なんて想像してはみたが。うーん、なんとも。

 そんなタイ代表は20日、パトゥムタニー県ランシットのホテルに集合。22日にUAEへ向けて出発する予定となっている。彼らの移動座席はどうなのか、注目を集めるタイミングではあるものの、選手自身は「マイペンラーイ」とそこまで気にしていない気もしないではないのだが。

 果たして……。

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