律儀すぎる小久保裕紀はラジオ局の取材でも…「顔が映らない?いえ、こうしないと失礼です」
「あんな王さんを初めて見た」と振り返った小久保は「巨人に行ったら良くも悪くも注目されるぞ、と心配してくださいました」と恩師に対して敬語を使ってお礼を述べた。自分を極限に追い込み、けがの最中でも1日にバットを1000回振り続ける小久保の姿は、現役時代の「世界の王」にオーバーラップする。
小久保は王以上に律儀な男だ。テレビと違ってラジオは顔が出ない。機嫌の悪い選手がソッポを向いて横柄にしゃべっても、リスナーには分からない。だが小久保は心構えが違う。担当した移籍後初のインタビューが鮮烈だった。「日本一の猛練習の虫」を取材班はベンチ前で待っていた。彼は丁寧にヘルメットを脱ぎ汗でぬれた髪を整え、フリー打撃で乱れたユニホームを直すと、黒いベルトをキリリと締め直したのだ。
「あのう、小久保さん、これカメラ回りませんよ」と私が恐縮すると、彼はさも当然という表情で切り返した。
「いえ、こうしないと失礼です。このマイクの向こうには何十万の人がいるんでしょ。インタビュアーはファンの代表だからね」
こんな気配りをする野球人を私は知らない。小久保のファンは今でも圧倒的に福岡に多い。巨人軍の宮崎キャンプでは、ホークスの帽子をかぶった野球ファンが、ソフトバンクの練習の合間に大挙してバスで押し掛ける珍現象が起きた。純粋な小久保ファンである。球場出口で待ち受けた福岡のファンに、小久保は「巨人軍」の文字抜きで色紙にサインをしていた。やっぱりこの男は日本一律儀なのだ。その瞬間、見えない糸で結ばれた2人の「師弟関係の復活」を予感した。この日のソフトバンク戦は、小久保は4打数無安打に適時エラーといいところがなかった。


















