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おいしい料理を味わう本特集

「糖尿病S氏の豊かな食卓」 坂本素行著

 待ちに待った食欲の秋が到来。ということで、今週は食をテーマにした文庫本を紹介する。江戸の庶民たちの食生活をのぞいてみたかと思えば、こだわりの療養食やナマコを巡るエンターテインメントまで、よりどりみどりの5冊。本ならいくら「食べて(読んで)」も太らないから大丈夫。

 糖尿病の悪化を機に、丹念な暮らしを心がけるようになった陶芸家が病を得て変わった食に対する心構えと、自ら編み出した料理を紹介するエッセー。

 闘病のため、食生活を見直した氏は「少ない量しか食べられないなら、それを徹底しておいしく作って満足感を得よう」と発想を転換。毎日の3食を自ら作り続ける中で完成させた料理は、身欠きにしんで作った「北国風ニシンの酢漬け」や長時間ローストして脂を落とした「豚バラ肉のダイエットロースト」、そして「マカロン」などのスイーツまで。どれも体に優しく、舌も喜ぶメニューばかりで、生活習慣病予防にもぴったり。ぜいたくな食材を使うのではなく、どこにでも売っている食材をいかにおいしくするかを追求していくその姿勢に学ぶこと大。(文藝春秋 650円+税)

「築地 魚の達人 魚河岸三代目」小川貢一著

 著者は魚河岸仲卸「堺静」の3代目。「堺静」は、魚河岸が日本橋から築地に移った昭和10年に母方の祖父が創業。当初は干物専門の問屋だったが、父親の代に鮮魚も扱うようになったという。自らの意思で店を継いだ氏だが、バブル崩壊やスタッフの引き抜きなどが重なり、平成15年に廃業。その後、氏は生まれ育った築地で魚料理店を開き、新たなスタートを切る。

 そうした人生を振り返りながら、幼い時から見てきた父や母の仕事ぶりや、毎日がギャンブルだという「競り」をはじめとする魚市場の日常やしきたり、そこで働く人々の人情などを紹介。さらに、魚の見極め方から、魚のおいしい食べ方まで伝授。築地で生まれ育ち、働いてきた魚の目利きによるエッセー。(集英社 520円+税)

「料理の四面体」玉村豊男著

 世界中の料理や調理法を紹介しながら、全料理に通底する一般的原理を解き明かした名著の復刻版。

 アルジェリアを旅行中、ごちそうになった「羊肉シチュー」。炭火の上の鍋に、食材と香辛料を放り込み、放っておいただけの野外料理だが、真に繊細な味わいを秘めており、そのプロセスはさまざまな料理に発展する無限の可能性をはらんでいるという。同じように羊肉を使ったフランス料理と比較する一方で、その野外料理の方法論を日本の素材に適用したらどうなるかと考える。

 そうした思考の末、料理のプロセスは「火・空気・水・油」の4要素が互いに複雑に絡み合って演じるドラマだと定義し、4要素を頂点とした「料理の四面体」を基本モデルとして提示。料理本にして料理の神髄に迫る奥深い書。(中央公論新社 648円+税)

「幕末単身赴任 下級武士の食日記」青木直己著

 紀州和歌山藩の下級武士・酒井伴四郎の日記をもとに、幕末の江戸の人々の食生活を紹介する歴史読み物。

 万延元(1860)年、江戸勤番を命じられた28歳の伴四郎は、18日かけて江戸に到着。日記は、その旅の詳細から始まる。途中で芝居見物を楽しんだかと思えば、洪水の中、食べるものがなく、ようやく「雲助」が食べるような粗末な昼食にありついたなど、食べたものやその値段、出来事が克明につづられている。さらに江戸到着後は、まずは自炊の道具をそろえて、江戸での初めての外食にはそばを食う。そばといっても当時は「そばがき」が一般的だったなど解説も充実。寿司や銘菓などの江戸グルメの定番メニューをはじめ、長屋での男所帯の自炊の献立まで、江戸の豊かな食文化を紙上で味わう。(筑摩書房 780円+税)

「ナマコ」椎名誠著

 モノ書きの「私」は、新宿にある行きつけの居酒屋「呑々」の主人・小田さんに誘われ、北海道に旅に出る。

 北海道のコンブにほれ込んだ小田さんは、仕入れ先を開拓するついでに、肺がんを病む親友を見舞いたいという。まずはレンタカーを借り、知床斜里で暮らすその親友の家に向かう。親友の安広さんは網元の長男で、かつてはコンブ漁をしていたが、いまは家族総出で採ってきたナマコを加工して中国に輸出しているという。酒の肴として「ウニ・ホヤ・ナマコ」をこよなく愛する私は、やがて安広一家との縁で、香港でナマコ取引の現場に立ち会うことに。

 人気作家が、実話をベースに、食材を巡るオジサン2人の旅を描いたオモシロ小説。(講談社 600円+税)

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