「月の満ち欠け」佐藤正午著

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 小山内堅は、石油元売りの中堅企業に勤める平凡なサラリーマン。同郷の梢と結婚して娘・瑠璃にも恵まれ、ささやかながら幸せな毎日を送っていた。しかし、突然交通事故で妻と娘を失い、たったひとり取り残されてしまった。失意のまま、故郷の八戸に戻った小山内だったが、長い年月が過ぎ60歳を越えた彼のもとに娘の生まれ変わりを名乗る少女が現れる。奇妙な話に戸惑いつつも、その少女と会うことにしたのだが……。「永遠の1/2」で第7回すばる文学賞を受賞してデビューし、2015年には「鳩の撃退法」で第6回山田風太郎賞を受賞した著者による最新の書き下ろし長編小説。

 娘の生まれ変わりを名乗る少女とその母親との出会いを軸に、瑠璃を巡る小山内の過去や、瑠璃の生まれ変わりとの交錯をにおわす奇妙な体験をした人物のエピソードが挿入され、次第に全体像が見えてくる構成になっている。

 欠けた月が再び満月になるかのように、亡くなった人が別の人物になって戻ってきたとしたら、人はどんな感情を抱くのか。その戸惑いと喜びとが、静謐な筆致で描かれている。(岩波書店 1600円+税)

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