ノウハウに基づく診療が増加傾向…「エビデンス」を信じると高くつく
私は元々、動物薬などの安全基準を検査、調査する研究所に在籍していたので、臨床獣医師になって30年ほど。いまこうしてやっていられるのは、ひとえに臨床に転じた当時、指導していただいた師匠のおかげです。
当時は、師匠の手技をひたすら見て覚えるスタイルで、質問は何でもOKでした。その繰り返しで師匠が「○○術はできそうだ」と判断すると、「やってみるか?」といわれ、その手術を師匠のサポートを受けながら担当します。
臨床獣医師として初めての手術は、私が里親となった子猫2頭の避妊手術でした。師匠が助手の位置についてくれたことで1頭目を無事に終了すると、「大丈夫だね」と別室で休憩。ベテランのもうひとりが麻酔管理はしてくれていましたが、何かあればフォローしてくれるはずの師匠がいない。ビビりつつも何とか手術を終えて師匠の元へ。
「ひどいじゃないですか。何で見ていてくれないんですか。もし何かあったら……」
師匠に怒りをぶつけると、こう言われました。
「わが子を預けた飼い主さんはいつもそう思っているんだ。その気持ちを忘れずに」