幽霊の心をほぐす「ばんめし屋」の料理

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「最後の晩ごはんふるさととだし巻き卵」椹野道流著/KADOKAWA 480円+税

 この10月に移転予定の築地市場には、市場で働く人たちのために深夜から早朝にかけて営業している食堂がある。築地ならではの逸品に加え、深夜・早朝の食堂には独特の雰囲気があり、好んで出かける人も多いようだ。

 本書の舞台は、芦屋にある「ばんめし屋」で、夜の6時か7時ごろに開店して、近くの阪神電車芦屋駅の始発が走り始める午前5時に店を閉めるという深夜・早朝に特化した定食屋。

【あらすじ】五十嵐海里は高校卒業後、ミュージカルのオーディションに合格し芸能界デビュー。その後、朝のバラエティー番組で料理コーナーを担当して全国的に名を知られ、順風満帆のイケメン俳優人生を歩んでいた。

 ところが、朝の連ドラの主役が決定していた若手女優とのスキャンダルをでっち上げられ、あっさり所属事務所を解雇。神戸の実家を頼るが追い出され、芦屋界隈で飲んだくれているところを地元のヤンキーに襲われる。

 そこへ通りかかったのが「ばんめし屋」の店長、夏神留二だ。行く当てのない海里は留二の店に居候になるが、料理コーナーを担当していたものの実際にできるのはキャベツの千切りとしゃれた盛りつけくらいで、料理の腕はからっきし。それでも留二の繊細な技を見よう見まねしているうちに、徐々に料理の楽しさに目覚めていく……。

【読みどころ】大筋はいたってオーソドックスなのだが、店の隅に幽霊らしき青年が常駐していたり、古いセルロイド眼鏡の付喪神が英国紳士の姿を借りて目の前に現れたりと、一気に奇妙な世界へ移行する。

 しかし幽霊もおいしいものには目がないようで、最後には留二たちが作る料理が幽霊の心(?)をほぐすという心温まる物語に着地する。好評シリーズの第1作。 <石>

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

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