規則に縛られる給食に挑む腕利き調理師

公開日: 更新日:

「給食のおにいさん」遠藤彩見著/幻冬舎 686円+税

 日本における給食は、明治時代に貧困児童を対象にして昼食を供したのが始まりとされている。現在では貧困やネグレクトによって親から食事を与えられずに、給食が唯一の食事になっている子どもも少なくないという。本書はそんな給食の大切さを教えてくれる。

【あらすじ】佐々目宗は各種料理コンクールで優勝した経験を持つ腕利きの調理師。10年間の修業の後、28歳で念願のビストロを開くが、開店まもなく店が火事になってしまう。

 呆然とする彼の目に留まったのが、臨時給食調理員の募集。応募先の若竹小学校は、こだわりの手作り調理を基本とし、おまけに残業なし。ここで1年間働き再起を図ろうと張り切ったものの、若竹小の給食調理を仕切る学校栄養職員の毛利に、「給食は、一に安全、二に栄養、カロリー、塩分、予算。味はその次」とクギを刺され、味にこだわる宗とことごとく対立する。それでも多様な規則に縛られる給食の調理に馴染んできた宗は、なんとか子どもたちにおいしいものを食べさせたいと、さまざまな工夫をする。

 そうした中で出会ったのが、保健室登校をしている佑磨、母親にネグレクトされて家では食事を与えられず毎日放課後に調理場に残った給食をもらいに来る陽、元売れっ子の天才子役だったが太ったために仕事が激減、食べることを恐れる美玲といった子どもたち。彼らと触れ合うことで、宗は腰掛けと思っていた給食調理師の仕事の奥深さを感じていく……。

【読みどころ】給食というと献立内容や味に関して取り沙汰されることが多いが、まずは本書の陽のように「おれ(の体)は給食でできています」と言い切れるような信頼できる給食であって欲しい。本シリーズは現在第5作まで刊行。 <石>

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 2

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  3. 3

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  4. 4

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  5. 5

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  1. 6

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  2. 7

    今度は横山裕が全治2カ月のケガ…元TOKIO松岡昌宏も指摘「テレビ局こそコンプラ違反の温床」という闇の深度

  3. 8

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    大谷翔平のWBC二刀流実現は絶望的か…侍J首脳陣が恐れる過保護なドジャースからの「ホットライン」