著者のコラム一覧
北尾トロノンフィクション作家

1958年、福岡市生まれ。2010年にノンフィクション専門誌「季刊レポ」を創刊、15年まで編集長を務める。また移住した長野県松本市で狩猟免許を取得。猟師としても活動中。著書に「裁判長! ここは懲役4年でどうすか 」「いきどまり鉄道の旅」「猟師になりたい!」など多数。

「南極ではたらく」渡貫淳子著

公開日: 更新日:

 2015年12月から1年4カ月間、第57次南極地域観測隊の調理隊員として昭和基地で活動した著者のエッセー集。日記をもとに書かれた個人的な記録であるとともに、白一色に囲まれた観測隊員たちの生活ぶりが描かれている。

 隊員数は30人だが、メインである観測系の隊員は12人に過ぎず、設備のメンテナンスなどを担当する設営系のほうが多いという記述に、発電機の故障ひとつでも命に関わってくる特殊な環境が想像できる。携帯電話が使えないため、通信手段は無線機。多忙な通信隊員がとうとう無線室で暮らし始める描写など、いかにも南極ならではだ。

 調理隊員は2人。朝はビュッフェスタイル、昼は麺類中心、夜はメイン料理に小鉢と味噌汁、ごはん。夜勤者のための夜食も作る。土木作業の手伝いや風力発電施設の建設作業、雪かき。野外観測に帯同し、雪上車や小屋で調理することもある。

 さて、持ち込んだ食料は30トン、約2000品目。つぎの隊がくる1年後まで補給がなく、年間保存できる野菜は長芋とタマネギのみ。水には使用制限があり、生ゴミは焼却後、日本に持ち帰らなければならない。海を汚さないため生活排水を抑える必要もある。食事への不満を募らせることなく職務を果たしてもらうには、何を提供するのがベストなのか。

 この条件下、大活躍するのがカレーとおにぎりなのである。カレーは他の料理で余ったスープなど再利用でき、最後はスープにすれば生ゴミがでない。おにぎりも夕食で残った米を再利用し夜食にする。天かすとあおさのりを使った通称“悪魔のおにぎり”は、帰国後SNSを通じて評判となり、本書を書くきっかけにもなったのだから、人生何が起きるかわからない。

「どうしても」と思ったらまずは挑戦だと、明るく背中を押してくれる一冊だ。(平凡社 1400円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    N党・立花孝志氏に迫る「自己破産」…元兵庫県議への名誉毀損容疑で逮捕送検、巨額の借金で深刻金欠

  2. 2

    高市内閣は早期解散を封印? 高支持率でも“自民離れ”が止まらない!葛飾区議選で7人落選の大打撃

  3. 3

    箱根駅伝は「勝者のノウハウ」のある我々が勝つ!出雲の7位から良い流れが作れています

  4. 4

    女子プロレス転向フワちゃんいきなり正念場か…関係者が懸念するタレント時代からの“負の行状”

  5. 5

    高市首相「午前3時出勤」は日米“大はしゃぎ”会談の自業自得…維新吉村代表「野党の質問通告遅い」はフェイク

  1. 6

    歪んだ「NHK愛」を育んだ生い立ち…天下のNHKに就職→自慢のキャリア強制終了で逆恨み

  2. 7

    我が専大松戸は来春センバツへ…「入念な準備」が結果的に“横浜撃破”に繋がった

  3. 8

    学歴詐称問題の伊東市長より“東洋大生らしい”フワちゃんの意外な一面…ちゃんと卒業、3カ国語ペラペラ

  4. 9

    村上宗隆、岡本和真、今井達也のお値段は?米スカウト&専門家が下すガチ評価

  5. 10

    自死した元兵庫県議の妻がN党・立花孝志党首を「名誉毀損」の疑いで刑事告訴…今後予想される厳しい捜査の行方