「平成の終焉 退位と天皇・皇后」原武史著/岩波書店/2019年

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 21世紀になって天皇神話が強化されていることを記述した興味深い作品だ。1948年の坂口安吾の天皇論を切り口にして論じている。かなり挑発的な議論だ。
<作家の坂口安吾(一九○六~一九五五)は、一九四八(昭和二三)年に発表した「天皇陛下にささぐる言葉」で、昭和天皇の戦後巡幸が戦前の行幸さながらの光景を全国各地でよみがえらせていることにつき、こう批判しています。/天皇が現在の如き在り方で旅行されるということは、つまり、又、戦争へ近づきつつあるということ、日本がバカになりつつあるということ。狐憑きの気違いになりつつあるということで、かくては、日本は救われぬ。/陛下は当分、宮城にとじこもって、お好きな生物学にでも熱中されるがよろしい。(中略)(「坂口安吾全集15」、ちくま文庫、一九九一年)/分刻みのスケジュールが組まれ、天皇と皇后が乗る車の沿道では過剰な警備や規制がしかれ、訪問場所ではあらかじめ人々が整列し、二人から声をかけられた人々は時に涙を流し、夜にはホテルの前で提灯奉迎が行われる平成の行幸啓をもし安吾が見たならば、天皇明仁もまた「人間」にはなっていないと言うに違いありません>

 現在は、過激派の機関紙を除けば、このような言説を展開するような新聞はないと思う。昭和から平成に代替わりするときには、政治家や有識者の中にも、天皇制を廃して共和制に転換すべきだと主張する人はいた。しかし、そういう人は現在、ほとんどいない。平成の31年間の間に、天皇と国民の一体感はより強まったのである。

 そもそも天皇制という言葉はコミンテルン(共産主義インターナショナル)に由来するものだ。この言葉には、制度であるから改変可能であるという了解がある。しかし、天皇を中心に日本人を統合するというシステムは日本人の文化に深く根差しているので、容易には変更できない。天皇が現人神であるという認識が、日本人の深層心理を支配しているのである。 もっとも、沖縄に関しては、このような天皇神話が共有されていない。沖縄問題の難しさは、天皇信仰と密接に関連している。 ★★(選者・佐藤優)

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