「アメリカは歌う。 コンプリート版」東理夫著

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「聖者の行進」という歌は、黒人たちが葬送の行進のときに歌うもので、現世の苦しみから逃れて聖者の群れに加わりたいという来世での希望を歌ったものだとされている。しかし、この歌の歌詞には、アメリカ南部の奴隷州の黒人たちを北部の自由州へ逃亡させるための暗号が秘められていて、具体的な逃亡経路が示されているという。

 また、PPMで有名な「虹と共に消えた恋」という歌のオリジナルは、17世紀末のアイルランドとイングランドの戦いにまで遡り、そこには働き手を戦争に奪われた女性たちの悲しみが託されていたという。あるいは、同じPPMの「500マイル」は、新大陸へ渡り仕事を求めて国中をさすらった「ホーボー」と呼ばれる流れ者たちの悲哀が歌われている……。

 本書には、日本でも馴染みのアメリカのカントリーやフォークソングが多数取り上げられ、歌詞を手がかりにその歌が作られた背景と隠された意味合いが丁寧に解き明かされ、これまでの常識を見事に覆してくれる。800ページを超す大著にはアメリカ音楽にまつわる目から鱗のうんちくがたっぷりと詰まっており、年末年始の読書にお薦め。

(作品社 4200円+税)



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