「派遣社員 あすみの家計簿」青木祐子著

公開日: 更新日:

 最近ではスマホで領収書を読み取る機能など便利な家計簿アプリが出ているが、ある調査では女性の52・3%が家計簿をつけていて、そのうち「手書きのみ」が45・7%、「パソコンのみ」が26・3%、「アプリのみ」が16・9%と、案外手書き派が多いことがわかる。手で書くことで数字の実感が得られるからだろうか。本書の主人公も、大枚を払って購入したモンブランの万年筆で家計簿をつけている。

【あらすじ】飲食店のオーナーで、近く年商1億円を突破する見込み、入籍したらタワーマンションに引っ越そう――。恋人の理空也の言葉を信じたあすみは、彼の望む専業主婦になるべく、思い切って一流企業の会社を辞めた。

 送別会を終えて家に戻ると理空也がいない。彼が言っていたことは全部嘘だった。飲食店の単なるバイトで、あすみのマンションに居候しながら買い物はすべてあすみのカードで払っていた。結果彼女の手元に残ったのは残高428円の預金通帳だけ。途方に暮れるあすみに、友人の仁子は、ハロワ(ハローワーク)に行く、カードを折る、家計簿をつけるの3つをすぐに実行しろという。これまで金の苦労をしたことのないあすみは、収入がなくなることへの実感がなく、ついカードで買い物しようとしてしまう。家計簿をつけてその癖を矯正せよというのだ。

 最初はトンチンカンなことをくり返していたあすみだが、派遣社員として仕事を始め節約術も身につけていく。なんとか月々の支払いに追われなくなった頃、あの理空也が現れる……。

【読みどころ】同じ作者の「これは経費で落ちません!」の森若さんのきちょうめんさとはまるで正反対。男を見る目がなく、世の中に対する考えの甘いあすみだが、最後にはたくましく成長していく。 <石>

(小学館640円+税)

【連載】文庫で読む傑作お仕事小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    安青錦は大関昇進も“課題”クリアできず…「手で受けるだけ」の立ち合いに厳しい指摘

  2. 2

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  3. 3

    マエケン楽天入り最有力…“本命”だった巨人はフラれて万々歳? OB投手も「獲得失敗がプラスになる」

  4. 4

    中日FA柳に続きマエケンにも逃げられ…苦境の巨人にまさかの菅野智之“出戻り復帰”が浮上

  5. 5

    今田美桜に襲い掛かった「3億円トラブル」報道で“CM女王”消滅…女優業へのダメージも避けられず

  1. 6

    高市政権の“軍拡シナリオ”に綻び…トランプ大統領との電話会談で露呈した「米国の本音」

  2. 7

    エジプト考古学者・吉村作治さんは5年間の車椅子生活を経て…80歳の現在も情熱を失わず

  3. 8

    日中対立激化招いた高市外交に漂う“食傷ムード”…海外の有力メディアから懸念や皮肉が続々と

  4. 9

    安青錦の大関昇進めぐり「賛成」「反対」真っ二つ…苦手の横綱・大の里に善戦したと思いきや

  5. 10

    石破前首相も参戦で「おこめ券」批判拡大…届くのは春以降、米価下落ならありがたみゼロ