「職業現場」としての映画で裏方として活躍

公開日: 更新日:

「スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち」

 文学部とか国際ナントカ学部などで女子学生が卒論のテーマにしたがるのが「プリンセスアニメの変容」。昔の「キスを待つ」お姫さまから「自立した女」への変化、という思いつきだ。だがこの手の発想は大抵、映画を大して見もしないで出てくる。

 その一方、あのアニメ、この実写と「戦闘美少女」系を見まくってジェンダー論やフェミニズム、精神分析で重箱の隅をつつく場合もある。

 しかしそこで盲点なのが「職業現場」としての映画の側面。今週末封切りの「スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち」はまさにその意味で秀逸なドキュメンタリーだ。

 アニメでも実写でも女たちが跳んで撃って蹴って殴るのが当たり前の時代だから、ハリウッドにはベテランのスタント女優が多い。まずは彼女たちの自慢話。「ワイルド・スピード」シリーズで男たちをぶっちぎった話から「マトリックス」のバイク爆走までが並ぶ。次が歴史。白髪のレジェンドがイーストウッドの「恐怖のメロディ」の崖落ちシーンを回想し、サイレント時代も列車から飛行機に飛び移った豪傑がいたという。

 そして話題は撮影の苦労話からスタント女優の組合結成へ。そもそも映画の草創期には女優のアクション場面も多かったのに、映画産業が近代化すると裏方の女性たちが現場を締め出されてゆく。

 思い出したのがピート・ダニエル著「失われた革命」(青土社 3600円+税)に出てくるホットロッドレースの歴史。

 車同士をぶつける粗野なレースだが、アメリカには「ローハイド・ヒロイン」と呼ばれたじゃじゃ馬の伝統がある。ところが草レースがインディ500などに“進化”すると女性ドライバーの事故死が非難されるのを恐れ、業界は女たちを締め出してゆく。女たちの社会進出はアタマより体を張って得られたものなのだ。 <生井英考>

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    大手家電量販店の創業家がトップに君臨する功罪…ビック、ノジマに続きヨドバシも下請法違反

  3. 3

    落合監督は投手起用に一切ノータッチ。全面的に任せられたオレはやりがいと緊張感があった

  4. 4

    自民党総裁選の“本命”小泉進次郎氏に「不出馬説」が流れた背景

  5. 5

    「二股不倫」永野芽郁の“第3の男”か? 坂口健太郎の業界評…さらに「別の男」が出てくる可能性は

  1. 6

    今思えばあの時から…落合博満さんが“秘密主義”になったワケ

  2. 7

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性

  3. 8

    三谷幸喜がスポーツ強豪校だった世田谷学園を選んだワケ 4年前に理系コースを新設した進学校

  4. 9

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  5. 10

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋