イザベラ・ロッセリーニらが語るクリエーティブの秘密

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「ヘルムート・ニュートンと12人の女たち」

 今年が生誕100年というので映画「ヘルムート・ニュートンと12人の女たち」が先週から公開されている。それを見ながら1980年代を思い出していた。ドイツ人のニュートンは同じファッション写真家のR・アベドンやW・クラインより年長だが、独自の作風が知られたのは80年代だったからだ。

 カラーとモノクロ双方を駆使し、サディズムとフェチシズムもあらわにトップモデルたちの裸体を玩弄した彼の作品は、不思議に女たちに人気があった。いみじくも映画でイザベラ・ロッセリーニが言うように、彼のサディズムは両性具有めいた淫蕩さと、何かの拍子に攻守が入れ替わるような危うさ、それを承知で弄ぶ遊戯感を濃厚な味わいにしていた。

 それが今見ると、フェイクでフォニーな80年代ならではのものに感じられるのだ。

 映画にはロッセリーニのほか、シャーロット・ランプリングや「ヴォーグ」の元編集長アナ・ウィンター、またどんないかがわしいヌード撮影にも常に立ち会ったという妻のジューン・ニュートンらが登場し、彼のクリエーティブの秘密を語る。80年代は「幻想の幸福感」の時代だったといわれるが、その秘密が垣間見えるようだ。

 実際、当時の大統領レーガンの楽天的過ぎる笑顔や「人種を超えた」幻想を振りまいたマイケル・ジャクソンの時代は、トランプと反人種差別運動の現代から見ると、信じ難いほどフェイクだろう。

 岡本正史著「TOKYO 1985」(蒼穹舎 3200円+税)は、日本では「昭和末」にあたるこの時期の東京を撮った写真集。

 ニュートンのマネキン人形めいた映像のあとで見ると、まるで記憶の暗渠の蓋が開いたような気分になる。街のたたずまい、人の気配からあの時代のにおいが鼻に押し寄せてくる。目よりも鼻に訴えかけてくる、その力に息をのむ。 <生井英考>

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