著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「詰むや、詰まざるや」長谷川晶一著

公開日: 更新日:

「森・西武VS野村・ヤクルトの2年間」という副題が付いた本だ。1992年と1993年の日本シリーズは、この2チームが激突した。その全14試合を現時点から振り返ろうという本である。

 両チームの監督は、現役時代ともに名捕手といわれ、監督になってからはいずれも緻密な野球を得意としていたので、この2年間の日本シリーズは名試合といわれている。いまから30年近く前のことであるから、若い読者は知らないことばかりだろうが、本の冒頭にその全14試合の結果が載っている。92年は西武が勝ち、93年はヤクルトが勝った。結果が分かっているのなら、そんなの再現したってつまらないと言う方がいるかもしれないが、これが抜群に面白い。読んでいるだけで血が脈打ってくる。

 たとえば、93年の第4戦、ヤクルトが1対0で迎えた八回の表。西武の鈴木健がセンター前ヒットを放ち、二塁ランナーの笘篠誠治がホームに突っ込んで、飯田の好返球で刺されるシーンがある。このシーンをさまざまな選手、コーチ、監督の証言を積み重ねて、再現するのだが、何げないシーンにいろいろな意味と思惑があったことを私たちは知らされるのである。その奥行きの深さが圧巻だ。

 はるか昔のことであるから、えっ、おれがホームランを打ったのと細部を忘れている選手もいるが、克明に覚えている人もいて、それもリアルだ。活字野球の醍醐味がここにはぎっしりと詰まっている。

(インプレス 2000円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人阿部監督が見切り発車で田中将大に「ローテ当確」出した本当の理由とは???

  2. 2

    母・辻希美の光る危機管理センス…希空が大手芸能プロ入りしなかった“七光り批判”回避以外の大人の事情

  3. 3

    J1に異変!2連覇の神戸が開幕から5戦未勝利「3つの元凶」…選手間にはフロント幹部への不信感も広がる

  4. 4

    「石破降ろし」加速へ…10万円商品券配布バレ、深夜の公邸会見で記者にネチネチ逆質問の完全墓穴

  5. 5

    キャバクラ通い朝乃山 厳罰招いたウソと大関復帰の可能性

  1. 6

    コシノジュンコそっくり? NHK朝ドラ「カーネーション」で演じた川崎亜沙美は岸和田で母に

  2. 7

    ナベプロが新たな柱に社運をかけた状況で、ジュリーの立場は息苦しく…

  3. 8

    大阪万博パビリオン建設は“24時間体制”に…元請けの「3月中には完成させろ!」で危惧される突貫工事の過酷労働

  4. 9

    公共施設へのスターバックス出店に相次ぐ疑問…愛知県津島市では激安賃料への批判も

  5. 10

    大阪万博まで1カ月で異常事態! リングの盛り土ボロボロ削れ浸水被害の恐れ…識者は台風や高潮を危惧