「魔女の森」サンドラ・ローレンス著、堀口容子訳、吹春俊光監修

公開日: 更新日:

「魔女の森」サンドラ・ローレンス著、堀口容子訳、吹春俊光監修

 何とも思わせぶりなタイトルだが、サブタイトルは「不思議なきのこ事典」。とは言っても、きのこを科学的に解説したり、きのこの見分け方や、野外観察用の図鑑でもない。

 きのこにまつわる神話や伝説などを紹介しながら、きのこと人間の切っても切れない関係をひもといていくビジュアルブックだ。

 現在判明している人類最古のきのこの摂取者は、スペインのエル・ミロン洞窟で見つかった1万8700年前の「レッド・レディ」。彼女がきのこを口にしたのは、食材としてだったのか、薬としてだったのかは分からない。

 アルプスで見つかった5300年前の男性のミイラ・エッツィの持っていた袋にもいくつかのきのこが入っていた。カンバタケは虫下し用下剤、ツリガネタケは着火用の火口(ほくち)として用いられていたらしい。

 古代エジプトでは、雷雨の後に出現する奇妙さから、きのこは嵐の神セトの贈り物で、稲妻によって地上に送られると考えられ、不老不死をもたらす宝物としてファラオしか口にできなかった。

 古代ギリシャでは、ゼウスが雷雨の間に大地に射精すると考えられており、きのこは神の「子孫」とされたという。

 ほかにも、ローマ皇帝クラウディウスの暗殺に用いられたタマゴテングタケや、中国で不老不死の仙薬とされ、多くの伝説が伝わるマンネンタケ(霊芝)、ダーウィンの娘エティが子どもたちの目に触れる前に採っては燃やしていたというペニスそっくりのスッポンタケなど、まずは人間ときのこの歴史を振り返る。

 さらに、ポルチーニやアミガサタケなど食にまつわるエピソードから、アートになったり、幻覚作用をもたらすものまで。100種類以上のきのこを英国王立植物園キューガーデン所蔵の美しいイラストとともに紹介する。

(グラフィック社 2970円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    今オフ勃発「FA捕手大シャッフル」…侍Jの巨人・大城、SB甲斐を筆頭に中日、阪神も参戦か

    今オフ勃発「FA捕手大シャッフル」…侍Jの巨人・大城、SB甲斐を筆頭に中日、阪神も参戦か

  2. 2
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 3
    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  4. 4
    3Aでもボロボロ…藤浪晋太郎の活路を開くのは阪神復帰か? 日本ハム、オリックス移籍か

    3Aでもボロボロ…藤浪晋太郎の活路を開くのは阪神復帰か? 日本ハム、オリックス移籍か

  5. 5
    3人兄妹の末っ子だから年上と遊ぶ機会が多く、彼らと遊ぶだけの体力もあった

    3人兄妹の末っ子だから年上と遊ぶ機会が多く、彼らと遊ぶだけの体力もあった

  1. 6
    “辞めジャニ”野村義男は59歳で現役バリバリ!引く手あまたの秘訣は「第三の道」を歩んだこと

    “辞めジャニ”野村義男は59歳で現役バリバリ!引く手あまたの秘訣は「第三の道」を歩んだこと

  2. 7
    巨人・秋広が今季初昇格も阿部監督「全く期待していない」…のんきな性格がアダで早くも背水の陣

    巨人・秋広が今季初昇格も阿部監督「全く期待していない」…のんきな性格がアダで早くも背水の陣

  3. 8
    阪神・岡田監督が密かに温めていた「藤浪獲得プラン」が消滅していた…

    阪神・岡田監督が密かに温めていた「藤浪獲得プラン」が消滅していた…

  4. 9
    当時日本ハムGMだった山田正雄氏が「この性格はプロでやる上でプラスになる」と確信した決定的瞬間

    当時日本ハムGMだった山田正雄氏が「この性格はプロでやる上でプラスになる」と確信した決定的瞬間

  5. 10
    人間性やスタンスが如実に表れたMLB挑戦時の「西海岸かつ小規模都市」へのこだわり

    人間性やスタンスが如実に表れたMLB挑戦時の「西海岸かつ小規模都市」へのこだわり