「奇妙な漢字」杉岡幸徳氏

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「奇妙な漢字」杉岡幸徳著

 昔と比べて漢字を書けなくなったと感じることはないだろうか。文章のほとんどはパソコンかスマホで打ち込むため、いざ手で書こうとするとなかなか漢字が出てこない。とはいえ、今さら漢字ドリルを買ってくる気にもなれない。そこでおすすめしたいのが、世にも奇妙な漢字たちを集めた本書。ページをぱらぱらとめくるだけでも漢字の魅力に引き込まれ、改めて漢字を勉強したくなってくる。

「子供の頃は漢字辞典を見るのが好きで、『朧』などの難しい漢字を見つけるとワクワクしたものでした。大人になるとそんなこともなくなりましたが、ある時、とてつもなく退屈したことがあり、何げなく懐かしの漢字辞典を読んでみたところ、ある漢字に目がクギ付けになりました。その漢字とは、『玊』。“、”の位置がズレた印刷ミスかと思いきや実在する漢字で、音読みがシュク、意味は傷のある玉。改めて漢字の面白さ、キュートさに心を掴まれ、奇妙な漢字を集めてみたいと思い執筆に至りました」

 本書には、著者の独断と偏見で“奇妙”と判定した468の漢字が取り上げられており、その不思議な形や意味を堪能することができる。

 たとえば「」。「数字の1? アルファベットのI?」と混乱しそうだが、これもれっきとした漢字。音読みはコンだが、奇妙なのがその意味だ。

という漢字はふたつの正反対の意味を持っており、下から上に書くと“進む”。上から下に書くと“退く”の意味になります。しかし、毛筆で字を書いていた時代ならともかく、現代人がボールペンで書いたら上と下どちらから書いたのかなど分からないでしょうね」

 見た目でニヤリとさせられるのは、「忑」。音読みはトウ・トクで、意味はいかがわしいものを想像してしまうが、何と「心がむなしい」。本質を突いているようでドキリとさせられる。

「井の中に石と書いて訓読みが“どんぶと”という漢字も気に入っています。これは見た通り、井戸の中に石を投げ込んだときに響く音を意味する漢字です。人をおちょくっているような字ですが、よく知られてる丼という字だって井戸の中に物(、)を投げ入れた時の音に由来するので、見慣れていないだけで奇妙とするのは間違いかもしれません」

 井の中に木と書いて「ざんぶと」という漢字もあるという。井戸に木を投げ入れたら、たしかにそんな音がしそうだ。

 ほかにも、「龍」を4つ合体させた“おしゃべり”という意味を持つ漢字や、「菌」に似た字の中に木が9つも書かれている“園・庭”を意味する漢字など、見たこともない漢字たちが満載。ちなみに、本書に掲載されている漢字は決して著者の創作などではなく、辞典や書物に確かに載っている漢字であることを記しておく。

「日本で作られた国字から、唐・周の則天武后が作らせたという則天文字などさまざまな漢字を取り上げました。辞典には載っていても使われた形跡がない漢字や、限られた地域でしか使われない漢字などもあり、その自由さが本当に面白い。ぜひトイレにでも1冊置いて、気楽な気持ちで漢字の魅力を味わってみてください」 (ポプラ社 990円)

▽杉岡幸徳(すぎおか・こうとく) 兵庫県生まれ。東京外国語大学卒業。作家。異端なもの、アウトサイダーなものを深く愛し執筆活動を続けている。著書に「世界奇食大全 増補版」「世界の性習俗」「大人の探検 奇祭」などがある。

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