「これからの供養のかたち」井出悦郎氏

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「これからの供養のかたち」井出悦郎著

 先祖の供養について、親が存命なうちは任せていたが、親亡き後、悩ましく思っている人も多いのではないか。

 葬式は家族葬が主流になり、宗教者を呼ばない無宗教葬もじわじわと増えている。昔はかしこまった儀式だった法要も「省略しちゃおうか」との声も聞く。

「供養の形は時代によって変わって当然です。でも、日本人が仏教的な供養をし始めたのは平安時代。嫌々行ってきていたのなら1000年以上も続かなかったはずです。供養は幸せにつながる“心のインフラ”だから続いてきたのだと思います。なのに、僧侶たちがそれを伝えてこなかった。必要ないかもと思われるようになってしまったんですね」

 全国の寺院のコンサルタント業を行い、現代にふさわしい供養を模索してきた著者が、供養の意味、寺と人々の距離感を問い直すとともに、推奨する供養方法を説いたのが本書である。まず興味深いのは、現代人の「あの世観」だ。

「2013年の『日本人の国民性調査』(統計数理研究所)によると、1958年は若い世代ほどあの世を信じなかったのに逆転。高齢世代ほどあの世を信じず、若い世代ほど信じる傾向になっています。私自身、2017年、東京大学の大学院生約30人に『資本主義社会におけるお寺の可能性』をテーマに講義をしたとき、『この中に、あの世を信じる人はいますか?』と聞いたところ8割もの学生が手を挙げ、驚きました」

 あの世観に関しては、最新の調査で、死後に「極楽浄土、天国、あの世など、どこかしらの異界に行く」と答えた人が約半数にのぼり、コロナ禍前と比べ倍増しているとも。一方で、コロナ禍に葬儀や法事といった別れの節目を持てず、気持ちの整理がつかないという声も上がっている。

「もやもやがたまっている人に、お勧めしたいのが“弔い直し”です。三回忌や七回忌など一般的な回忌じゃなくても、今やりましょうと。私は、お寺に『今、一気にやりましょうキャンペーン』(笑)を提案していますが、やった人たちから『すっきりした』という声が届いています。菩提寺がなく、どこのお寺に頼めばいいか分からないなら、近年増えている、イベントをやるなど外に発信しているお寺に相談すればいいのです」

 弔い直しは血縁に限らず、「個人化」の傾向にある。友達が亡くなったが家族葬で弔問できなかったから一人で読経を依頼する、仕事仲間と一緒に故人の法要を営むといったケースも出現。本書には、クリスチャンの親を亡くした娘さんが寺に葬儀依頼し、仏教儀礼に聖書の一節や賛美歌を足す式を行った事例や、友人同士やLGBTQカップルで入れる墓が登場しつつある現状なども紹介している。

「お寺側にも檀家側にも、代が替わっても寺檀関係は自然に継承するものと考えず、檀家側に『関係性を継承するかどうか』を決める仕組みに変わる方がいいと思っています。恐らく『お墓のことなどいろいろと面倒くさいから継承しよう』となる人が多いはずですが、主体的に継承すると、弔いに関しても主体的に考えるようになると思われます。継いでも1代。『子どもの代は子どもが考えてくれ』くらいな気持ちでお寺という装置、お坊さんがいることによる重みのある儀式を活用しないのはもったいない」

 他にも、理想の葬儀、墓、仏壇を実現するコンサルタントならではのノウハウも開陳。 

(祥伝社 1078円)

▽井出悦郎(いで・えつろう)1979年生まれ。東京大学文学部卒業。東京三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)勤務などを経て、寺院や宗教を対象とするコンサルタント業に。2012年に一般社団法人お寺の未来を設立。現在、同法人代表理事。寺院紹介ポータルサイト「まいてら」を運営する。

 

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