著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

古書防破堤(吉祥寺)「純文学系は発行部数が少ないからこそ古本屋の出番です」

公開日: 更新日:

 吉祥寺・中道通りを少し歩いて、不動産屋さんの角を左へ。えっ? ここ? 外階段を上がった2階に現れる古書店だ。30平方メートルに、多すぎず少なすぎず、本が美しく並んでいる。「秘密基地見つけた、って感じです」と、申し上げると、店主の堤雄一さん(47)にっこり。

「店名の『防破堤』は、“出版など文化的なものが破壊されていくのを防ぐ”の意味。僕の名字も入れて、文芸評論家の佐々木敦さんが付けてくれました」

 2020年1月のオープン。

 堤さんは、大阪郊外で新刊書店を父と経営していたが、“時代の波”に見舞われて閉店した。その後、いわく「気分転換」に上京。もとより文学・思想書を読んできた身。本屋やカフェで開かれる作家らのトークを聞きに行っているうちに、「同好の人たちが一定量いる」と気づいたことが、古書店開業につながったそう。開業すぐにコロナ禍となり「きつかったですよ。でも今はなんとか」。

色褪せた本も混在する文学・哲学の棚が圧巻

「旅・散歩・街」「食・料理・暮らし」の棚あり、映画と音楽のコーナーあり。「新刊書店にない本がほとんど」とのことで、たとえば? 村上春樹と川本三郎の対談本「映画をめぐる冒険」を取り出した堤さん。「1985年刊。文庫本になっていなくて」。しかも村上春樹が映画を語る本は珍しいそう。

 と聞いたのが取材の序章。この店のすごさは、少々色あせた本も混在する文学・哲学の棚にあった。

 文学の棚は作家名五十音順に並び、「な」なら中井英夫、中村真一郎、中上健次、中上紀、中村光夫といったふうに、ほぼ純文学。「芥川龍之介は今も読まれますが、直木三十五はあんまり……でしょ?」。確かに。大衆小説に比べて純文学系は発行部数が少なく、文庫化されない本も多い。「なので、古本屋の出番だ」と堤さん、言わずもがな。「僕は評論家でないので」と言いつつ、その続きで聞いた、近代文学の系譜と出版状況の話に、私は目からウロコ。興味ある方は「防破堤」へお運びください。

◆武蔵野市吉祥寺本町2-25-7 中山ビル201/JR中央線・京王井の頭線吉祥寺駅から徒歩6分/12~20時、木曜休み

うちの大切な1冊

「哲学思想の50人」ディアーネ・コリンソン著 山口泰司ほか訳

「ウチは思想書も多いのですが、思想家を1人1冊の本で読もうとするとしんどい人も多いと思います。そんな哲学入門者に案内したいのが、この本。ソクラテス、プラトンから実存主義のサルトルまで、50人の思想家の思想や人間的側面のあらすじが紹介され、西洋哲学史2500年の流れがつかめます。“思想事典”の意味合いでも、手元に置いておきたい本ですね」

(青土社 2002年刊 売値800円)

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