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「現代ロシアの歴史認識論争」西山美久著

 まるで皇帝のようにふるまうプーチン。旧ソ連時代にも劣らぬ独裁権力の源泉はなにか。



「現代ロシアの歴史認識論争」西山美久著

 一方的にウクライナに侵攻したプーチンは、戦争を仕掛けた理由をウクライナを「非ナチ化」するためだとした。ウクライナの現政権は極右でネオナチ政権だからこれを叩くのは国際正義にかなっている、という理屈だ。この発想の根底には第2次大戦でドイツと争ったソ連はファシズムとの戦いに多大な犠牲を払いながらも勝利した、という神話がある。

 本書はこの神話を「大祖国戦争史観」と呼び、その歴史的な系譜からプーチンの思惑、周到な国際宣伝のやり方までをたどっていく。

 プーチンは既に20年以上にわたってこの“ロシア版歴史修正主義”を宣伝してきたが、その目的はロシアの愛国主義をかき立て、自身の権威化に役立てるためだった。また国内向けだけでなく、国連常任理事国の地位を利用して国際的にも確立しようとしてきたという。英米はこれを巧みにはねつけてきたが、いまやアメリカがロシアびいきのトランプに乗っ取られた以上、今後がどうなるかは予断を許さないだろう。 著者は東大の先端科学技術研究センターの特任助教だ。 (慶應義塾大学出版会 3960円)

「悪党たちのソ連帝国」池田嘉郎著

「悪党たちのソ連帝国」池田嘉郎著

 滅びたとはいえソ連は「プロレタリアート独裁」を叫んだ共産主義国。つまり人民主権の極致だったはずだ。だが、近代ヨーロッパの市民社会が法の力で権力を抑制したのに対してソ連は逆に権力者が市民を規制するために法を駆使した。

 著者は近現代ロシア史が専門の東大教授。本書の著者は「この点でソ連はむしろ、皇帝が君臨した革命前のロシアに似ていた」という。ここから「ソ連帝国」という矛盾をはらむ概念が生まれたわけだ。

 そのソ連帝国を率いたレーニン、スターリン、フルシチョフ、ブレジネフ、アンドロポフ、そして最後の最高指導者ゴルバチョフ。本書はこの6人を1章ずつ取り上げて詳しく論じる。どれも興味深いが、注目はブレジネフ後の最高指導者アンドロポフ。KGB議長を長年務める一方、芸術表現の自由には柔軟な姿勢を見せた。だが、強烈な反ユダヤ主義姿勢でも知られた。持病の腎臓病で書記長就任からわずか15カ月で死去し、後継者と目されたゴルバチョフは最高指導者になってまもなくペレストロイカ政策を進め、ソ連を幕引きへと一歩進めることになったのである。 (新潮社 1925円)

「FSB ロシア連邦保安庁」ケヴィン・P・リール著、並木均訳

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 プーチンがかつてスパイだったのはよく知られた話。正確には悪名高いKGB(国家保安委員会)の職員だったが、ソ連邦崩壊で当たり前ながらKGBは解体。しかし諜報機関や秘密警察はなくなったわけではない。1995年にKGBの機能を引き継いで誕生したのが本書のとりあげるFSBだ。著者はアメリカの諜報機関に勤務した元分析官でロシア(ソ連)史と東側の諜報機関に詳しいという。

 興味深いのはかつての帝政ロシアの政治や文化を否定したはずの旧ソ連のKGBが、実は帝政期のオフラーナ(秘密警察)の資料を活用して国民の検閲から反革命の動きの監視を行っていたこと。プーチンはロシア帝国の威光を政治的に利用してナショナリズムをかき立てたが、実は秘密警察の系譜は帝政時代からソ連を経て現在のロシアにまで受け継がれたわけだ。

 ソ連崩壊後も旧KGBは本格的な制度改革を逃れ、エリツィンはむしろ自分のためにこれを利用した。エリツィンの側近から出世したプーチンにとって好都合この上なかったのだ。著者はFSBがウクライナ侵攻後のウクライナ側の動きを見誤ったとして有力幹部が処罰されたことにも触れる。今年74歳になるプーチンの後のロシアがどうなるか。FSBが権力争いに一枚かむ可能性も大きそうだ。 (作品社 2970円)

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