泉麻人さん 近未来ならぬ「近過去」を掘り下げて調べることが死ぬまでの趣味
泉麻人さん(作家/69歳)
およそ100冊の著書を持ち、東京や昭和の本を書き続ける作家の泉麻人さん。やりたいことは街歩きや再探訪をさらに掘り下げることだという。
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もともと僕は自分が生まれた昭和30年代から40年代のことを調べることが好きだったんです。近未来ならぬ「近過去」ですね。
今は、僕がMCを務めた「冗談画報」という、バンドや芸人がショーを見せる80年代半ばから5年間ほど続いた番組についての本を書いています。番組に登場した芸人さんやミュージシャンの批評に加えて、バブルの頃の時代背景も重ねるという構成なんですが。
■国会図書館で閲覧する古い新聞の広告やテレビ欄がこれまた面白い
そういう著書を書く時の資料として、仕事場には本がたまっていますが、それとは別に国立国会図書館に行くこともよくあります。新館の方に新聞が閲覧できるスペースがあり、本棚に新聞の縮刷版がズラッと並んでいるんです。戦前からの新聞が1カ月ごとに束になった合本から、仕事で調べている時代のものを探して読む。
もちろん政治面や三面記事も重要だけど、広告やテレビ欄も載っているので、その時代の空気感が伝わってきます。ネット検索するのも一つの手ですが、縮刷版を読んでいると、調べているものの横に載っている広告に目を引かれ、横道にそれていく。それがまた面白い。
仕事でなくても、興味のある時代の記事を読みにいくこと自体が趣味といってもいい。順番待ちをするような混み方はしていないので、フラッと行って読むのはオススメですよ。
■往年の日本映画のロケ地や若い頃に行った場所を訪ね直す
昔の東京の町並みや建物を調べるためには、サブスク配信で往年の日本映画もよく見ます。さらにそのロケ地を再探訪することもあります。今はユーチューブにも古い映画のロケ地を探して歩くようなマニアックな番組がありますよね。
2、3年前に石立鉄男さんの70年代のホームドラマを制作していたユニオン映画のチャンネル動画に出演して「気になる嫁さん」「雑居時代」のロケ地がいくつかある成城あたりを巡りました。撮影で使われた一軒家が残っていましたよ。国会図書館に古い住宅地図を調べに行くこともあります。そういうのを見つけて楽しむんです。鉄道マニアの世界に、廃線された鉄道の痕跡を探す人たちがいますよね。それと一緒です。
最近は古地図や昔の航空写真をファイルしたアプリがあるので、趣味として映画やドラマのロケ地を推理する時にも、昭和の町並みについてのエッセーを書く時にも重宝しています。
スマホのGoogleマップも街歩きの時に役立っています。街の歴史を調べている僕でも知らない街道の名前が入っていたりして、驚きます。池袋の要町の奥を散歩していたら、何の変哲もない住宅街の横道なのに「銀婚通り」とマップに出たんです。区の資料を当たったら、大正天皇の銀婚式が行われた時に開通した道らしくて、そう名付けられたと。例えば商店街の名前で覚えている道も、商店街になる以前には通りの名前があったわけで、そういうことがわかると面白い。
僕のやりたいことは近過去をもっと掘り下げて調べること。仕事でありながら死ぬまでの趣味ですから。