(55)82歳で認知症になった母からもらった大きな課題
母が倒れ、実家にいない間に父が寿命を迎え、ひっそりと生を終えていたことも大きな出来事だった。東京で独身ひとり暮らし、長年の会社勤めからフリーランスになり4年目のことだった。コロナ禍で、東京と地方の行き来が厳しい目で見られていた時期だったことも追い打ちをかけた。
それまで、親はゆっくりと老いてゆき、私にも心の準備ができてからお別れが来るのだろうと漠然と思っていたが、現実はそう甘くはなかった。母の認知症、父の孤独死、そして空き家。私は突然、それまで想像もしていなかった社会問題の当事者になったのだ。
このところ、ついのすみかをどうするかといった問題が公に、そして友人どうしでも語られるようになった。私は子を持たずにここまで来たので、母のように子に最期の生活の責任を担ってもらうことはできない。
これからどのように暮らし、どのように年齢を重ねて、どのように死んでゆくのか。答えのない問いを私はまだまだ解き続けなければならないのだろう。母から大きな課題をもらったような気がしている。そして、可能な限りこの道のりを書き続けてゆこうと思う。 (おわり)
▽如月サラ エッセイスト。東京で猫5匹と暮らす。認知症の熊本の母親を遠距離介護中。著書に父親の孤独死の顛末をつづった「父がひとりで死んでいた」。



















