たとえ不安定であっても本人や家族の望み通りの過ごし方を
またこの患者さんは、肺や心臓などの重要な臓器が収まる胸腔に異常にたまった体液を排出するための医療器具である胸腔ドレナージを装着したまま退院されていました。さらに、排出された体液をためる袋も一般的なものではなく、特殊な形状が使われていました。そのため当初は、排液量の多さや、袋が倒れて漏れてしまうのではないかと私たちは懸念していました。
しかし、訪問看護師がS字フックを使って袋をベッドに掛け、倒れないよう工夫をし、そうした一つ一つの対応について奥さまにも説明。納得していただきながら、患者さんが療養する環境を少しずつ整えていったのです。
「私たちも、奥さんの処置を正直ヒヤヒヤしながら見ていました。でも、やるとおっしゃるご家族の思いを、こちらが取り上げるわけにもいきません。残された時間を、ご家族が思うように過ごせることが一番だと思ったのです」
これは、奥さまの看護を間近で見ていた訪問看護師の言葉です。この話を聞き、たとえやり方に多少の誤りがあったとしても、ご家族にとってそれは、患者さんを思い、気持ちを尽くす大切な行為なのだと改めて感じました。
そして、たとえ不安定で危うさを伴う環境であっても、ご本人やご家族の希望をできるだけ尊重しながら、実際にできることをすり合わせ、柔軟に対応していくことで、患者さんとご家族が納得し、よりよく過ごせるよう支えられる──それこそが在宅医療の大きな強みなのだと、改めて思ったのでした。



















