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内田正治タクシードライバー

1951年埼玉県生まれ。大学卒業後、家業の日用品、雑貨の卸会社の専務に。しかし、50歳のときに会社は倒産。妻とも離婚。両親を養うためにタクシードライバーに。1日300キロ走行の日々がはじまった。「タクシードライバーぐるぐる日記」(三五館シンシャ)がベストセラーに。

(25)その女性客は“オバケ”ではなかったけれど…「津田梅子」新札登場でふと思い出した

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 しかし、彼女は違った。入行後、結婚したものの仕事を続け、出産後も銀行をやめることもなく定年まで勤め上げたのだという。仕事と家庭を両立させたばかりか、男性に負けじと猛勉強に励み、博士号、MBAも取得したというのだ。

「周囲の人たちは、男も女も結構冷ややかでしたけどね」と彼女は小さく笑ったが、私にもその大変さは理解できた。そして、「当時の面接官に、私、定年まで勤めましたよって言いたかったけど、その方はとっくに退職してました。ハハハ」と今度は豪快に笑った。

「運転手さん、すっかりいい気になって自慢話しちゃった、ごめんなさい。聞いていただいてありがとう」

 目的地に着くと、彼女は照れくさそうにそう言いながらクルマを降りていった。私は「お疲れさまでした。これからもがんばってください」とエールを送った。乗車料金は5000円ほどで、彼女は「オバケ」ではなかったが、降ろした後、私は不思議な爽快感を覚えたものだ。いまでも忘れられないお客だ。

 ちなみに今年、「津田梅子」が、新5000円札の顔に採用された。そのニュースを聞いて私はなぜかその女性のことを思い出していた。

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