著者のコラム一覧
白石 あづさライター&フォトグラファー

会社を辞め3年にわたる世界旅行へ。訪ねた国は100カ国以上。著書に「逃げ続けたら世界一周していました」(岩波書店)、「中央アジア紀行 ぐるり5か国60日」(辰巳出版)、「尾畠春夫のことば」「佐々井秀嶺、インドに笑う」(ともに文芸春秋)ほか。

(5)今からでも遅くない 心の避難訓練をしよう

公開日: 更新日:

 とある安宿に泊まった時のこと、大部屋にはパンツ一丁で寝ている太ったおばさんと、本を読む鼻ピアスの若い姉さんがいました。きっとどちらも一人旅でしょう。翌日も観光もせず部屋に籠もったまま。なんだか怪しい人たちです。

 夜、宿の台所で私が他の旅人に親子丼を分けていると、彼女たちも皿を手にやってきました。私の予想は外れ、ふたりは一緒に旅をしており、姉さんは病気のおばさんの旅にボランティアで付き添っている医大生なのだとか。私がつい「病気を治してからのほうがいいのでは?」と尋ねると、おばさんは答えました。

「私、がんであと半年の命なの。一人で家にいると憂鬱になるから逃げだしたくて。人生最後の旅に出たのよ」と。独身で家族もいないため近くの大学の掲示板でボランティアを募集したのだとか。貯金も少ないから安宿の相部屋だけど、かえって各国の旅人と話せるのも楽しいし、人生初のオヤコドンも味わえたと喜んでいます。

 私は衝撃を受けました。年をとって病気でお金もなくて家族がいなければ、旅に出たくても「人さまに迷惑だから」と諦めてしまうでしょう。アメリカと日本は違います。けれど、鼻ピアス姉さんは「どこで本を読んでも同じだし」とケロッとしています。その時、「こうでなければならない」というがんじがらめの“常識”は少し緩めてもいいのかもしれないと思いました。

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