神保町「ラドリオ」初代店主の心配りが生きる路地裏の名店
さして詳しくない人でも「喫茶店の聖地は神保町でしょ」などと口にする。それは今回紹介する「ラドリオ」や、以前紹介した「さぼうる」といった老舗の存在が大きい。ラドリオは戦後間もない1949年創業。今も当時のたたずまいだから、「古くからある=聖地」という等式が成り立つのだろう。
重厚な扉を開くと、中は山小屋風。創業当時にはやっていた柱やれんがを使うハーフティンバー様式の内装が広がる。カウンターの中の作り付けの木製扉、凝った飾り彫りが施してある棚……。陳腐な表現だが、確かに「昭和レトロ」に触れられる。とはいえ、それだけで客は足を運び続けない。
「初代店長で20年ほど前までお店に立ち続けた臼井愛子さんの影響が大きいのでしょうね。『あの頃、愛子さんから非常に良くしてもらった』と言って、ふらっと立ち寄られる方が多くいらっしゃいます。ラドリオで働いて8年ですが、こういう方々を大事にしないといけないなと思います」と、2年前から店長を務める篠崎麻衣子さんは言う。
ラドリオのようなオンリーワン喫茶店ブームはなお続いている。
「その流れに乗って、ちょっとのぞいてみようとやってきたお客さまが、その後、常連になったりしているんですよ」
ラドリオでは常連客の新陳代謝が起きているわけだ。常連客はオンリーワン喫茶店の生命線のひとつだが、「なじみのお客さまが一人また一人と減って……」と嘆く店主は多い。それなのに、ラドリオで、ほかがうらやましがるだろう好循環が起きているのはなぜか。
■ウインナコーヒー発祥の地
名物はウインナコーヒー。もともとコーヒーが冷めないようにと愛子さんがコーヒーの上にたっぷりのホイップクリームを浮かべたことが始まりなのだが、これが日本初のウインナコーヒーとして知られる。
人気のフードメニューはナポリタン。やや麺が硬めで、タバスコと黒こしょうを利かせた味だ。
しかし、厳しい言い方をすれば、いくら「日本初」とはいえ、ホイップクリームたっぷりのウインナコーヒーを毎日飲もうとは思わない。ナポリタンを名物とする喫茶店はあまたある。