「国際大会は分散開催でしか生き残れない」運営の専門家が提唱

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鶴田友晴(元ラグビーW杯2019 組織委員会事務総長代理)

 5カ月後に開幕が迫った東京五輪への逆風が強まっている。コロナ禍、世論の盛り下がり、組織委員会の森喜朗前会長の女性蔑視発言。そうでなくてもここ数年、世界の五輪熱は下火だ。招致や運営費用が高騰し、開催地への立候補に二の足を踏む都市もあり、存続すら危ぶまれている。日本が史上初の8強入りに沸いた2019年ラグビーW杯や02年サッカー日韓W杯など多くの国際大会の運営に携わった専門家は経済的負担、疾病などのリスク回避のためにも複数の都市や国による共催にすべきと提唱する。詳しく聞いた。

*インタビューは【動画】でもご覧いただけます。

■コロナ禍の強行は五輪の価値の毀損につながる

 ――東京五輪は開催すべきだと思いますか。

 スポーツビジネスに携わってきた立場からすれば、スポーツ界へのさまざまな影響を考慮すると、何としてでも五輪は開催してほしいと思います。しかし、ここまでコロナの問題が大きくなってきて選手が無事に出場できるのか。予選ができないとか、選手が不安から参加を見送るということになれば、五輪の価値が落ちることになる。そういう状況になれば開催は見送るべきだと思うし、何よりも日本国民をはじめ世界中の人たちが五輪を歓迎できないという感情が圧倒的に強いのであれば、民意をくむべきではないでしょうか。

 ――世論の反対がある以上、中止もやむを得ない。

 開催国の国民、世界中が歓迎しない中で強行するのは五輪の価値の毀損につながりかねません。五輪は世界中の人たちから歓迎されて行われるものであって、世界の祭典としてやるもの。それが、こんな時期にやるもんじゃないという意見が圧倒的に多ければ、それこそ今後の五輪の意義まで問われかねません。IOC(国際オリンピック委員会)のスタンスも問われるでしょう。

 ――開催は依然として先行き不透明と言わざるを得ません。

 いろんな意味で不透明ですよね。昨年3月に延期を決めた時点では、ワクチンが普及し、コロナも収束して、今年の7月には安全に開催できるとの見立てでした。そうした思惑が外れているのは間違いない。選手の健康、安全が確保され、五輪が無事に開催できるのであれば無観客で開催してもいいのですが、その方針は早く決定すべきです。

 ――今回を契機に五輪開催のあり方を見直すべきではないですか?

 オリンピック・パラリンピックは1都市開催が原則で、招致に立候補するのは国ではなく都市です。今回の東京大会の場合、ホストシティーは東京都であり、会場も原則、都内にあります。しかし実際には、いくつかの競技が都以外で行われます。サッカーは試合数を考えると都内だけでは施設が不足するのは明らかです。酷暑対策のためコースを札幌に移したマラソンもそうですし、開催都市によっては実施が困難になるのは十分にあり得ることです。こうした事情から、オリンピック・パラリンピックは最初から国内分散開催にすべきだと思います。

 ――1都市だけの開催では限界がありますか。

 五輪の開催費用は桁外れです。サッカーやラグビーのW杯は700億~800億円ですが、五輪は1兆円規模です。東京やロスのような大都市だけで開催すればいいのか。共催にすれば地方都市もホストになり得ますし、1都市の費用負担が軽減されます。

ラグビーW杯は12都市でオールジャパン

 ――W杯ラグビーは、分散開催が成功をもたらしたといわれています。

 全国の地方自治体が関与して一運営者として携わり、大会の盛り上げに寄与したことが成功の大きな要因でした。もちろん、日本代表が活躍したというのもあります。それにサッカーやラグビーのW杯のように国・地域同士が対戦する構図なども影響していますが、全国の会場で実施するイベントは圧倒的に広がりがあります。ラグビーW杯の成功の要因を考えた時に、まずは分散開催が挙げられます。それぐらい参加する自治体、住民を含めた力がいかに大きかったかということだと思います。

 ――1都市開催だと組織委が掲げる「オールジャパン」にはなりませんね。

 2022年に福岡市で開催される水泳の世界選手権は、福岡のイベントという印象が強く、日本全国で応援しようという機運にはなりません。これではもったいないと思うんです。世界のナンバーワンを決める大会を実施するのであれば、日本全国が応援するスキームを作る必要があります。国がリーダーシップを取って戦略的に考えた方がいいと思いますね。26年のアジア大会にしても「愛知・名古屋アジア大会」ですから。これではエリア限定でのイベントに過ぎません。非常にもったいないですよね。なぜ、日本全国を巻き込んだイベントにできないのかなと思います。

 ――全国で実施するメリットは?

 世界水泳にしても、世界陸上にしても、1カ所開催ですから、自治体の膨大な費用負担がなければ運営できません。07年の世界陸上は大阪市が約40億円を負担したため実現しましたが、1つの自治体が負担する額として多額ですよね。ラグビーW杯の場合は、開催12都市の分担金は総額約39億円でした。都市によって負担額の差はありますが、単純計算で1都市当たり約3億円です。それ以外にスタジアム整備など自治体が負担した費用はありますが、運営協力金としての負担は他の単一競技よりは少なく済んだ。世界水泳、世界陸上も複数の自治体で分担すればいいのです。

 ――自治体にも利点はありますか。

 スポーツイベントは各自治体とも、住民サービスのためにも積極的に開催したいと考えています。サッカーやラグビーのW杯のように、水泳や陸上の世界選手権を日本全国で開催するのは現実的ではないでしょう。しかし、例えば九州や関西といった広域開催であれば十分に可能だと思います。実施できる施設面などの問題をクリアした上での広域開催というのは十分に可能だし、各自治体にとってもメリットはあります。

■オペレーションのプロ育成も課題

 ――これまで、国際大会の分散開催が議論されたことはあるんですか?

 あまりないですよね。最近の動きで際立っているのは、FIFA(国際サッカー連盟)です。FIFAはW杯の出場国・地域を26年大会(米国、カナダ、メキシコ共催)から従来の32カ国から48カ国に増やしました。出場国が増えれば、1カ国での開催は難しいため、開催国も2~3カ国にして分散させる方法を取っている。サッカーでもこうした動きが出始めたということは他の競技でも同じことを検討する価値は十分にあります。ましてや五輪は金銭的負担が大きいので、当然、1都市開催の限界がテーマになると思います。

 ――IOCは、FIFAを参考にすべきですか。

 IOCは17年の総会で、24年パリ、28年ロサンゼルス開催を初めて同時決定しました。その後がどうなるか。東京、パリ、ロスの次に、果たして発展途上国の都市で開催できるのか。なかなか難しいと思います。分散することによって、数カ国、数都市で共催すれば可能性はあるかもしれません。東南アジアや中東地域、アフリカなどで五輪を開催しないのはおかしい。何らかの形での実施を考えた時に共催は十分に検討に値するはずです。地域の平和に貢献する可能性があるわけですから。将来的には例えば、日中韓3カ国五輪合同開催、インド・パキスタン共催、ASEAN10カ国共催など十分にあり得ると思います。政治的に対立している国同士でも、スポーツイベントでは協力し合うのは決して不可能ではないはずです。

 ――組織委の混乱を見る限り、日本には運営する側の人材難が深刻です。

 日本の国際スポーツイベントの場合、公的資金が投入されるため、お役人が中心に運営してきました。お役人は必ずしも国際スポーツイベントのオペレーションのプロではありません。優秀な方々ではあり、組織の核とはなり得ますが、専門家も必要です。この専門家を、どう集めるかが大事なことになる。人材の継承も難しく、どういう人材を育成していくのかが課題になります。

(聞き手=近藤浩章/日刊ゲンダイ

▽鶴田友晴(つるだ・ともはる) 1950年生まれ。学習院大学卒業後、電通入社。主にスポーツ畑を歩き、2002年サッカーW杯日本組織委員会事業警備局長、19年ラグビーW杯組織委員会事務総長代理などを歴任した。現在はTOPPANスポーツエグゼクティブアドバイザー、ぴあ顧問。

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