長嶋茂雄さんは当然のように電車改札を「顔パス」しようとして、駅員に捕まった
球場から所沢の駅までハイヤーでお送りし、特急レッドアロー号に無事乗せなければならない。
車が所沢駅に着くと私は切符売り場にダッシュ。時刻表をチェックし、池袋までの切符を買い求めようとした。そのときだった。ツカツカと改札口までやってきた長嶋さんが、
「どうも、長嶋ですぅー」
と軽く右手を上げて改札口を通ろうとするではないか。
「ど、どうしよう、まだ切符買ってないし……」
と焦る私にお構いなく、長嶋さんは改札口を素通り。駅員の方もあっけにとられていたが、やがて長嶋さんであることに気が付くと、駅長さんが飛んできた。そして、
「あっ、長嶋さん、ささぁ、どうぞこちらへ」
と駅の応接室に案内したのである。
「どうも、どうも」
と長嶋さん。遅ればせながら私も後ろから付いて行った。
応接室ではお茶、お菓子が出され、チケットも用意される。まさに至れり尽くせりである。