長嶋茂雄さんは当然のように電車改札を「顔パス」しようとして、駅員に捕まった
もっとも駅長さんもしっかりしていた。色紙を10枚持ってこさせると長嶋さんにサインをお願いしたからだ。
「いいですよぉ」
と言いながら長嶋さんはスラスラとマジックを走らせてサインをした。
それまで長嶋さんの伝説はいくつも耳にしていた。駅の改札口素通りもそのひとつだったが、まさにその長嶋伝説を目の当たりにしたのである。
あれから25年。
球場から所沢駅までハイヤーの中で長嶋さんと2人っきりになったが、そんな経験は後にも先にもそれ1回きり。初めての体験にハラハラドキドキしたのを思い出す。長嶋さんが初めて監督になった昭和50年は私がアナウンサーになった年。特別な縁も感じていた。
「山田君はアナウンサーは何年目なのぉ?」
「今日の僕の解説、どうでしたかぁ?」
車中、長嶋さんからこんな質問を受けたのだけは覚えているが、どんな答えをしたのか、他にどんな会話があったのか、まったく記憶がない。