川上哲治から長嶋茂雄へ…プロ野球主役の座の交代を告げた「神様のスクイズ」
勝負の世界で主役交代ほどドラマチックな出来事はない。プロ野球の歴史を探ると、これこそ、と思う試合があった。
川上哲治から長嶋茂雄に球界ナンバーワンの座が移った象徴的な日、それは1958(昭和33)年9月6日、甲子園での阪神との首位攻防戦だった。
首位の巨人が広島戦に連敗して迎えた阪神戦。巨人は1-1の七回表に小山正明から長嶋、藤尾茂の連打で一、二塁。この好機に打席に立ったのが川上だった。重盗で二、三塁と好機を広げ、カウントは2ボール1ストライク。ここでなんと、ベンチの水原茂監督が“神様”川上にスクイズのサインを出したのだ。
川上はバントを決め、三塁走者の長嶋が勝ち越しのホームを踏んだ。試合は巨人が5-1で勝った。巨人は翌日の試合から連敗しただけに、この6日の試合を落としていれば、5連敗で阪神にゲーム差1に肉薄されるところだった。結果論とはいえ、価値あるスクイズだったことが分かる。
川上といえば戦前戦後を通じて“プロ野球の顔”だった。全盛期は「弾丸ライナー」「赤バット」の異名を持ち「ボールが止まって見える」との金言を残した。2000安打第1号、首位打者5度をマークし、「打撃の神様」と称えられた。そんな大打者も衰え、当たり損ねの安打(テキサス安打)が多くなり“テキサスの哲”と呼ばれるようになっていた。