「長いお別れ」中島京子著

公開日: 更新日:

 中学校の校長や図書館館長を勤め上げ、悠々自適の老後を送っていた東昇平(ひがししょうへい)は、ある日同窓会に行こうとして家を出たものの途中で目的を忘れ家に戻ってきた。

 異変を感じた妻・曜子は、昇平をものわすれ外来に連れて行き、初期のアルツハイマー型認知症が発覚。それから3年、曜子は昇平の誕生日会を口実に、サンフランシスコ在住の長女の茉莉、子育て中の次女の菜奈、フードコーディネーターで独身の三女・芙美に同時に招集をかける。そこで3姉妹が見た父親の日常は、ただの記憶違いの域を越えた、遊園地での迷子、雑紙のコレクション、時々奇跡的に成立する会話、消える入れ歯など、まるで喜劇のような予測不能な出来事に満ちていた……。

 家族への愛着を残したまま記憶だけを少しずつ失い死へと向かっていく「長いお別れ」のような病気、認知症。そんな病を患った父親と家族の10年間の愛と奮闘の物語を、温かな目線で丁寧に描いている。

(文藝春秋 1550円+税)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阪神・梅野がFA流出危機!チーム内外で波紋呼ぶ起用法…優勝M点灯も“蟻の一穴”になりかねないモチベーション低下

  2. 2

    梅野隆太郎は崖っぷち…阪神顧問・岡田彰布氏が指摘した「坂本誠志郎で捕手一本化」の裏側

  3. 3

    「高市早苗首相」誕生睨み復権狙い…旧安倍派幹部“オレがオレが”の露出増で主導権争いの醜悪

  4. 4

    巨人・戸郷翔征は「新妻」が不振の原因だった? FA加入の甲斐拓也と“別れて”から2連勝

  5. 5

    国民民主党「選挙違反疑惑」女性議員“首切り”カウントダウン…玉木代表ようやく「厳正処分」言及

  1. 6

    時効だから言うが…巨人は俺への「必ず1、2位で指名する」の“確約”を反故にした

  2. 7

    パナソニックHDが1万人削減へ…営業利益18%増4265億円の黒字でもリストラ急ぐ理由

  3. 8

    ドジャース大谷翔平が3年連続本塁打王と引き換えに更新しそうな「自己ワースト記録」

  4. 9

    デマと誹謗中傷で混乱続く兵庫県政…記者が斎藤元彦県知事に「職員、県議が萎縮」と異例の訴え

  5. 10

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず