著者のコラム一覧
青沼陽一郎

作家・ジャーナリスト。1968年、長野県生まれ。犯罪事件、社会事象などをテーマに、精力的にルポルタージュ作品を発表。著書に「食料植民地ニッポン」「オウム裁判傍笑記」「私が見た21の死刑判決」など。

「マイノリティーに転落」の白人の恐怖が勝因

公開日: 更新日:

「さらば白人国家アメリカ」町山智浩著 講談社 1400円+税

 トランプ・ショックはいまだ冷めやらぬが、なぜ、あんな男が大統領になれたのか。それを端的に言い尽くしている文章がこの本の中にある。

〈白人の人口は減り続けている。1980年に人口の8割を占めた白人は、現在は62%に過ぎない。わずか27年後の2043年には白人が全人口の半分を切りマイノリティーに転落する。その恐怖が人種差別的なトランプへの支持につながっている〉

「メーク・アメリカ・グレート・アゲイン(アメリカを再び偉大に)」は、トランプの選挙スローガンだったが、この言葉は白人にしか響かない。移民政策で大きくなった米国は、白人の出生率が低下し、代わって黒人やヒスパニックの人口が増加していく。白人ブルーカラー(労働者)にとっては、彼らの仕事を奪い、また彼らの国を侵略する存在に映る。

 そこに追い打ちをかけるのが、「エスタブリッシュメント(主流派・既得権益者)」に対する抵抗だ。共和党は新自由主義、自由貿易を推進してきた。だが、潤うのは米国の巨大企業ばかりで、彼らの本来の仕事は、市場に出回る安価な中国や日本の輸入製品に取って代わられる。そこに企業献金の枠にとらわれない大富豪のトランプが現れ、既得権益を激しく攻撃し、「国境に壁をつくる!」「TPPから離脱する!」と叫ぶ。

 同じ白人でも、オバマ政権を継承するクリントンより、トランプが「サイレント・マジョリティー(物言わぬ多数派)」と呼んだ彼らは、“変化”を求めたのだ。

 本著は、米国在住のコラムニストが、前回の大統領選挙直後から、定期的に寄稿していた文章を時系列に沿ってまとめたものだ。いかに共和党が大企業の大型献金によって骨抜きにされ、瓦解し、メディアを含めた保守主義が暴走していくか、そしてトランプがなぜ台頭してきたのか、その経緯が丁寧に読み解かれている。残念ながら、今年の選挙の直前に出版されたものなので、トランプ勝利の結果と分析は記されていないが、表題にあるようにやがて米国が白人国家でなくなる、その直前になりふりを構っていられない白人ブルーカラーの空騒ぎが、この選挙結果につながっている。

【連載】ニッポンを読み解く読書スクランブル

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは

  4. 4

    柳田悠岐の戦線復帰に球団内外で「微妙な温度差」…ソフトBは決して歓迎ムードだけじゃない

  5. 5

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    ローラの「田植え」素足だけでないもう1つのトバッチリ…“パソナ案件”ジローラモと同列扱いに

  3. 8

    ヤクルト高津監督「途中休養Xデー」が話題だが…球団関係者から聞こえる「意外な展望」

  4. 9

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 10

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?