「ガザに地下鉄が走る日」岡真理著
アウシュビッツ収容所からユダヤ人が解放された3年後の1948年4月、エルサレム近郊のデイル・ヤーシーンで、極右のユダヤ民兵組織によってパレスチナ人の村人100人近くが虐殺された。
翌5月14日、「ユダヤ国家」を標榜するイスラエルが建国されるが、その過程で、パレスチナの地に住んでいたイスラム教徒とキリスト教徒のパレスチナ人70万余人が民族浄化され、難民となった。そして今、シナイ半島のガザ地区ではイスラエルの完全封鎖が10年以上に及び、200万の住人はイスラエルからの度重なる攻撃にさらされ、ドローンによって絶え間なく監視され、食糧供給も著しく制限され、あたかも強制収容所のような状態に置かれている。
日本のメディアではほとんど触れられることのないパレスチナ問題だが、カイロ留学時代に初めて訪れて以来40年にわたってパレスチナに関わってきた著者は、現地に暮らしている人々の声を正確に届けてくれる。人間性を剥奪されてしまう苛酷な状況の中で必死に生きる彼らの言葉は、国家や宗教の枠を超えて、人間はいかに生きるべきかという最も基本の問題を鋭く突きつける。
(みすず書房 3200円+税)