「飛翔 野生の瞬間」真木広造撮影・監修

公開日: 更新日:

 大空を自在に飛び回る野鳥たちの生き生きとした姿をとらえた写真集。書名通り、図鑑などではなかなかお目にかかれない鳥たちの貴重な飛翔シーンばかりを収録する。

 表紙は餌を求め雪原を飛ぶハギマシコの群れ。超高速シャッターで撮影されたその写真は、翼の羽の一枚一枚の動きまでが分かるほどの臨場感だ。

 また、沖縄の与那国島航路で撮影されたアオツラカツオドリは、海面を進む定期船に刺激され海中から飛び出すトビウオを狙いながら滑るように飛んでいる。

 まるで人が塗り分けたような鮮やかな黒と白のツートンカラーで力強く飛ぶ姿は、背景の海の青さによってさらに引き立ち、その顔は名前通り、海の青さに染まったかのように青みを帯びている。

 音もなく暗闇の中で獲物にとびかかろうとするシマフクロウ、獲物を捕まえたオジロワシとそれを奪おうとするオオワシの豪華な空中戦、長い尾羽が優雅な曲線を描くサンコウチョウ、美しいセイタカシギやハクガンの群翔、そして翼を目いっぱい広げ、まるでグライダーのように風を受けて飛ぶノスリなど、野鳥たちの飛ぶ姿は、それぞれの美しい羽や無駄のない造形が芸術品のような美しさで、見ていて飽きることがない。

 かと思えば、今まさに飛び立つ瞬間、その赤い足で水面を歩いているかのように見えるケイマフリや、魚と間違い海藻をくわえ、あわてて大きく口を開けるコグンカンドリなど、ひょうきんさやかわいさを感じる鳥たちもいる。

「優雅に空を舞う」という表現があるが、鳥たちの飛ぶ姿はまさにそのもの。しかし、野生の中で生きる彼らは時に、飛びながらいろいろなことをする。

 水面ぎりぎりに飛びながら水を飲むブッポウソウ、飛びながら捕まえたバッタを食べるアカアシチョウゲンボウ、著者のカメラのレンズが気になってホバリングして逆に観察を始めたケアシノスリ、アオツバメなどは空中で交尾まで行っており、その決定的瞬間を撮影されてしまっている。

 ミサゴが水中の大きなボラを捕まえる狩りの一部始終など、躍動感あふれる自然の一場面をとらえたシーンがあるかと思えば、水面に映るおのれの姿とあたかもツーショットのように狩り場へと向かうヤマセミなど、アートのような作品もあり、見る者を魅了する。

 中には、インドの留鳥でごくまれに日本に飛来するインドアカガシラサギなど珍しい鳥もいる。撮影場所は文字通り日本全国に及び、南硫黄島など離島で撮影されたものまである。著者は日本の鳥類全種類の撮影に挑戦中で、これまでに680種もの鳥をカメラに収めてきたという。本書はその中から120余種を網羅。それぞれに簡潔な解説と撮影データも添えられ、図鑑のようにも使える。

 暖かくなるまで、部屋の中で紙上バードウオッチングが楽しめそうだ。

(メイツ出版 1800円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    新生阿部巨人は早くも道険し…「疑問残る」コーチ人事にOBが痛烈批判

  2. 2

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  3. 3

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  4. 4

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  5. 5

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  1. 6

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  2. 7

    維新・藤田共同代表にも「政治とカネ」問題が直撃! 公設秘書への公金2000万円還流疑惑

  3. 8

    35年前の大阪花博の巨大な塔&中国庭園は廃墟同然…「鶴見緑地」を歩いて考えたレガシーのあり方

  4. 9

    米国が「サナエノミクス」にNO! 日銀に「利上げするな」と圧力かける高市政権に強力牽制

  5. 10

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性