夏はやっぱりホラー 怪異譚特集

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「拝み屋異聞 田舎怪異百物語」郷内心瞳著

 暑さを乗り切るための古典的な処方箋のひとつが、怪談である。読んでいると、得体の知れない何かがひたひたと迫ってくる気配や、突然現れる見覚えのない風景に肌があわ立つ。そんなとき、後ろを振り向いたりしないよう、くれぐれもご用心。

 7年前、著者の知人の青木義之さんは、引っ越した後、空き家になったうら寂しい山中の家で飲み会を開くことにした。余興として、幽霊が大の苦手の鷲山くんに「どっきり」を仕掛けようと思いつく。廊下に段ボール箱を積んで、奥座敷に行くには土間から座敷を2間突っ切っていく以外にルートがないようにした。鷲山くんには、他の人は遅れるので、奥座敷に電気をつけておいてほしいと頼んだ。

 明かりをすべて消した家でみんなが身を潜めていると、そろそろとした足音が聞こえ、奥座敷の前の襖がゆっくりと開く音がした。足音が奥座敷に入ると視界がぱっと明るくなり、幽霊に化けた女の子が床の間の陰から飛び出した。次の瞬間、彼女の悲鳴が! ……蛍光灯の下に立っていたのは、鷲山くんではなかった。

 怪談会で話された100の怪異。

 (イカロス出版 1600円+税)



「化物蠟燭」木内昇著

 影絵師の富右治は、蒼月屋の番頭に妙なことを頼まれた。本来なら2代目となるはずの朋造は大旦那に「おまえには店を継がさぬ」と言われ、家を出た。大旦那は職人の考太に後を継がせるというが、番頭は納得がいかないので、考太の寝所に影絵で幽霊を映して脅し、考太を追い出してほしいというのだ。

 引き受けた富右治は、知り合いの目吉が作っている化物蠟燭を使うことにした。蠟燭に一つ目小僧などの化物の切り抜き影絵を貼り付けて映し出す趣向だ。富右治は蒼月屋の庭に忍び込み、毎夜、考太の寝所に幽霊や妖怪を映し出した。ところがある日、考太に礼を言われた。自分を楽しませるためだと、いつも富右治の隣にいる編み笠をかぶった老人に教えられたと言う。自分の隣に? 富右治は背筋がぞくっとした。(表題作)

 江戸の市井が舞台の7編の奇譚。

 (朝日新聞出版 1600円+税)

「日本現代怪異事典 副読本」朝里樹著

 ある少女がメリーさんと呼んでいた西洋人形を、引っ越しのとき、ゴミ捨て場に捨てた。数カ月後、電話がかかってきた。「わたしメリーさん、今、ゴミ捨て場にいるの」。いたずらだと思って切ると、また「今、駅にいるの」と電話が。その後も何回かかかってきて、最後に後ろから声がした。「今、あなたの後ろにいるの」

 これは「メリーさんの電話」といわれる怪談だが、なぜ「メリーさん」なのか。戦前に日米親善を目的にアメリカから贈られた人形が、第2次大戦時に敵国のものとして焼かれてしまった。その中にメリーという名の人形が多かったことが影響しているのでは? 

 また、「浦島太郎」のように異界に行く話では、昔は亀などに連れていかれたのに、今は電車で連れていかれる話が多い。異界の駅に降りてしまった場合は、そこにいる子どもが現実世界に戻るカギになる。ちょっと違った視点から怪異譚を楽しめる解説本。

 (笠間書院 1800円+税)

「少年奇譚」川奈まり子著

 1970年代の初めごろ、当時4歳だった徹さんは両親と3人で京都市左京区に暮らしていた。九州から引っ越してきたばかりで友達はなく、幼稚園が終わると母親と一緒に自宅近くの宝ケ池公園に行くのが日課だった。

 ある日、徹さんは公園でおかっぱ髪の不思議な服装をした男の子に出会い、以来、一緒に遊ぶようになる。ところが徹さんがその男の子と遊んでいる間、両親には徹さんの姿が見えなくなっていたらしい。徹さんが男の子に告げると、途端に両親が魔法のように目の前に現れて「どこに行ってたの!」と詰問されることが続いた。翌春、徹さんは男の子から「もう会えへんで」と別れを告げられる。上賀茂神社にゴミを捨てた翌日のことだった。

 29人の男性が、子ども時代に体験した実話ルポルタージュ。

 少女編も同時刊行。 (晶文社 1500円+税)


「病院で起こった不思議な出来事」南淵明宏著

 心臓外科医である著者は、帰ろうとしたら、出口とは逆の方向の廊下を歩いていることに気づいた。帰ろうと思ったが思い直し、そばの病室をのぞいてみた。その病室には心臓の手術を控えた60代の女性患者がいたのだが、彼女が胸を押さえて苦悶しているではないか。すぐに手当てをしたために大事に至らずにすんだ。

 また、心臓のバイパス手術を受けて明日は退院という70代の男性患者がいた。著者はあいさつをしなくてはいけないような気がしたものの、用事があったため、後ろ髪を引かれる思いで帰宅。その晩、その患者の容体が急変してICUに運び込まれたという連絡がきた。(「虫の知らせ」)

 他に、外来に来ていた患者に地下鉄の中で会い、改札口で後ろ姿を見送ったのに、病院に帰ってその患者が既に亡くなったと聞いた話など、医師が遭遇した病院の怪異譚。

 (マキノ出版 1300円+税)


【連載】ザッツエンターテインメント

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