「民衆暴力 一揆・暴動・虐殺の日本近代」藤野裕子著/中公新書/820円+税

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 江戸時代の百姓一揆、明治時代以後の「新政反対一揆」「関東大震災時の朝鮮人虐殺」など、民衆が暴れた背景について多数の文献から論じる。のっけから意外だったのが、豊臣秀吉の「刀狩り」では、すべての武器が取り上げられたわけではなく、見た目として佩刀していないことで農民と武士との身分差を表す意図があったという。

 また、百姓一揆は暴力というよりは集団でお上に要求をする場であり、明治以降の方が暴力性が強くなっていった、といった点も分析されている。農作業用の蓑笠・鋤・鍬などを持つことで百姓であるというアピールになり、〈領主に仁政を求める正当性を示す手段になったのである。暴力をふるわないことこそが、領主からのお救いを引き出すためには重要だった〉というのだ。

 個々の例により人々が暴れた背景は異なれど、今の時代に共通するのが「デマ」が存在した点だ。コロナ禍では「トイレットペーパーがなくなる」というデマでドラッグストアには長蛇の列ができ、デマと言うのは正確ではないが「うがい薬がコロナに効果がある可能性がある」と大阪府の吉村洋文知事は言い、これまたうがい薬が棚から消えた。

「新政反対一揆」の場合、明治政府による被差別層の「解放」に反対する人が暴れた側面もあった。その際のデマはこうある。

〈「最近白衣の者が各地を徘徊して子どもを誘拐し、外国人に売り渡している。もし白衣の者を発見したら、半鐘や竹法螺で村中に知らせるべし」という噂が流れていた〉

 朝鮮人虐殺については、実は警察を含めた「官」が朝鮮人が狼藉を働いているというデマを積極的に広めたという。

 2010年代前半~中盤にかけ、全国各地で在日コリアンに対するヘイトスピーチデモが盛んで、ネット上は罵詈雑言にあふれていた。そんな中、目立ったのが「不逞鮮人」という言葉だ。古めかしい差別用語だな、と思っていたのだが、これのルーツがこの虐殺にあったのだという。

 韓国の独立運動「三・一運動」を経て〈あるべきでない反抗的な行動を表す「不逞」という語が「鮮人」の語と結びつき、「不逞鮮人」というフレーズが普及したのである〉として、〈これにより、よからぬことを企んでいるイメージ、現代風にいえば「テロリスト」のイメージが、朝鮮人と結び付けられた〉と、虐殺の背景を説明する。過去の民衆による暴力は、現代の我々とも地続きなのである。 ★★★(選者・中川淳一郎)

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